小特集 3. スーパバイザ制御の理論と応用

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システム数理の現状と展望

小特集 3.

スーパバイザ制御の理論と応用

Supervisory Control Theory and Its Applications

高井重昌

高井重昌 正員 大阪大学大学院工学研究科

Shigemasa TAKAI, Member (Graduate School of Engineering, Osaka University, Suita-shi, 565-0871 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.2 pp.121-127 2022年2月

©電子情報通信学会2022

Abstract

 離散値をとる状態が事象の生起によって遷移するようなシステムは離散事象システムと呼ばれる.離散事象システムでは,デッドロック回避などのため,事象の生起を制限する制御が必要となる.そのような制御のためのモデルベーストアプローチとして,スーパバイザ制御がある.スーパバイザ制御では,制御対象とその所望の動作を表現する有限オートマトンモデルに基づき,スーパバイザという制御器を構成する.本稿では,有限オートマトンによる離散事象システムのモデリング及びモデルに基づくスーパバイザ制御理論について紹介する.

キーワード:離散事象システム,スーパバイザ制御,モデルベーストアプローチ,有限オートマトン

1.は じ め に

 離散事象システムは,その状態が離散値をとり,事象の生起により遷移するようなシステムの総称である(1),(2).例えば,工場内の生産システムや搬送システム,交通システムなどの定性的な振舞いは,離散事象システムとみなすことができる.一般に離散事象システムにおいては,デッドロック回避や衝突回避などのための制御が必要となる.交差点での無人搬送車同士の衝突を回避するためには,搬送車が「交差点に進入する」という事象を制御する必要があり,ある搬送車に関して「交差点に進入する」という事象が生起した場合,「交差点から退出する」という事象が生起しない限り,他の搬送車に関して「交差点に進入する」という事象が生起しないようにする必要がある.つまり,事象の生起を制限する制御が必要となる.

 1982年に,制御理論の基幹国際会議であるIEEE Conference on Decision and Controlにて,離散事象システムを対象とした制御理論の必要性に気づいたトロント大学のW. Murray Wonham教授(現名誉教授)と同大学院生であったPeter J. Ramadge氏(現プリンストン大学教授)により,スーパバイザ制御理論に関する研究成果(3)が発表された.そして1987年には,両氏によるスーパバイザ制御理論に関する最初の原著論文(4)がSIAM Journal on Control and Optimizationに掲載されている.

 図1にスーパバイザ制御系のブロック線図を示す.制御対象は離散事象システムであり,その離散的な状態遷移を表現できる有限オートマトンなどでモデル化される.制御器はスーパバイザと呼ばれ,対象システムで生起した事象を観測し,その観測に基づき,制御動作を決定する.ここでの制御動作とは,制御対象における一部の事象の生起を禁止することである.前述の無人搬送車同士の衝突回避においては,スーパバイザは,ある搬送車に関して「交差点に進入する」という事象を観測すると,「交差点から退出する」という事象が観測されるまで,他の搬送車に関して「交差点に進入する」という事象を禁止する,といった制御動作を行う.このように,スーパバイザは事象駆動形の制御器であるため,制御対象と同様に,有限オートマトンなどでモデル化される.そのため,スーパバイザ制御理論はオートマトンと言語理論を基に構築されている.理論の提案からほぼ40年が経過した現在では,まだ拡張の余地はあるものの,離散事象システムの数理モデルに基づく制御理論としてほぼ完成の域にある(5),(6)


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