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Vol.105 No.3 (2022/3) 目次へ

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 * 脳は電気で動いていると言われています.もちろん,頭を切り開いてみても,トランジスタや導線などはありません.それらに近い役割は,(かなり大雑把に言うと,)神経細胞と神経線維が担っています.神経細胞は,内部にイオンを蓄えており,細胞内外に電位差を持ちます.また,神経細胞は,自発的に,若しくは外部刺激によって,イオンの取り込み・放出といった電気的な活動を行います.ヒトの脳内では,およそ1,000億個とも言われる神経細胞が神経線維を介して相互に刺激し合い,この活動の伝搬が行われています.このように,脳の活動の正体は,神経細胞の電気的な活動にほかなりません.

 * 本3月号では,バイオセンシングデバイスの技術動向を取り上げ,センサ,信号処理,応用の側面から小特集としてまとめています.前述のように,脳は電気で動いていますので,電気電子デバイスと生体は大変相性の良い関係にあります.すなわち,生体内の電気信号を計測することで,そのメカニズム解明に直接的にアプローチできます.更に,生体内の信号処理に介入することで,衰えた機能を補完するという応用にもつながります.

 * クリシュナ・シェノイ氏(スタンフォード大)ら率いる研究チームは,2021年にネイチャー誌にて,脳に微小電極を埋め込み,計測した神経活動から,(手を使わずに)コンピュータに素早く文字を入力できたことを報告しています.1分間に115文字の入力が可能で,これは健常者がスマートフォンで手を使って文字を打ち込む速さに匹敵するとのことです.このような技術は,ブレイン・コンピュータ・インタフェースと呼ばれており,運動機能に障害を持つ方(手足が動かせない,話せない方など)に,新たなコミュニケーション手段を提供できる有望な技術です.

 * 脳や生体に電極を埋め込むというと,今はまだ特殊なケースのように聞こえますが,今後技術が進み,安全性や倫理的な課題がクリアできれば,多くの人の生活の質向上に貢献する可能性を秘めています.近い将来,歯科インプラントなどと同列に語れるものとなるかもしれません.ヒトの精神的・肉体的能力を増強するトランスヒューマニズムという考え方もあり,応用の範囲は医療に限りません.

 * バイオセンシング技術は,科学的知識の追求だけでなく,私たちの生活の質,そして幸福度の向上にも直接寄与し得るものです.関連する研究分野も多岐にわたるため,多くの研究者・科学者・技術者の連携が不可欠です.本誌の記事が,関連分野における構成員の興味を引き付け,研究の更なる発展のきっかけとなることがあれば,記事を御執筆頂いた先生方,編集関係者にとってこの上ない喜びとなることでしょう.

(編集特別幹事 澤畠康仁) 

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