小特集 極限環境の計測を支える回路とシステム技術 小特集編集にあたって

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Vol.105 No.4 (2022/4) 目次へ

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小特集

極限環境の計測を支える回路とシステム技術

小特集編集にあたって

編集チームリーダー 中村洋平

 科学技術の発展により,人類はその活動領域を徐々に広げてきた.宇宙,深海など通常は人が立ち入らない世界では,人間の代わりに周辺状況を把握する計測機器やその場で情報を処理する計算機,遠隔地と通信する装置が欠かせない.特に極端な温度や高圧,高放射線下など,過酷な環境下で動作する装置には通常の電子機器とは異なるレベルの信頼性や耐環境性,設計手法が求められる.一方で,特殊な領域であるがゆえに,その具体的な性能仕様や技術そのものが一般の研究者や技術者の目に触れる機会は少ない.このような背景から,極限環境で動作する電子機器に対して理解を深める取組みとして,シンポジウム(2021年ソサイエティ大会「AI-1極限環境の計測を支える回路とシステム技術」)を開催し,好評を得た.本小特集では,シンポジウムの登壇者に加え,新たな著者にも御参画頂き,各種極限環境における電子機器の課題とシステム・回路・デバイス技術について御執筆頂いた.

 第1章ではインターステラテクノロジズ株式会社の森岡氏らにロケット飛行の高度な安全性を支えるアビオニクスに対する諸要求とそれを実現する技術について解説頂く.著者らは,日本の民間ロケットとしては初の宇宙到達を達成しており,本章では,特に民間ロケットの開発という立場から,実は身近な回路技術を使ってロケットを動かしていることについて,その設計思想から網羅的かつ詳細に解説頂いている.

 第2章では,近年特に環境問題として関心の高まっている海洋マイクロプラスチックの計測に取り組んでいる芝浦工業大学の小池氏らに,開発中の水中無人探査システムについて解説頂く.著者はかつて下町企業を中心とした深海探査機プロジェクト「江戸っ子1号」の開発に携わり,その知見を活用してガラス球を用いた海洋環境計測に取り組んでいる.本章では海洋計測の特徴と,計測システムの構成について御紹介頂いている.

 第3章では更に,海中で動作する機器と遠隔通信をするための水中音響通信について,海洋研究開発機構の出口氏らに御執筆頂いた.深海では大気中と比較して電波の減衰率が高く,通常の通信機器を利用することが困難であるため,一般に水中音響通信が使用されている.本章ではその特徴的な課題と各種技術を網羅的にかつ応用事例を挙げつつ解説頂いている.

 第4章では日立製作所の増永氏らに,原子力発電所などの高放射線下計測技術を紹介頂く.発電所では機器の動作監視が必須であるが,通常のSi-CMOSデバイスは高放射線下では破壊されてしまい適用が難しい.そこで,著者らは高放射線耐性を持つSiC-CMOSとそれを応用した計測回路を開発している.本章では高放射線環境下で半導体が受ける影響とSiC-CMOSの特徴,それを応用した計測装置について述べて頂いている.

 第5章では高耐環境性を有するダイヤモンド半導体の計測応用について,産業技術総合研究所の梅沢氏らに解説頂く.ダイヤモンド半導体は半導体として究極の特性を有すると言われ,著者らはその耐放射線特性,耐高温度特性を生かした原子炉格納容器内雰囲気モニタの開発を行っている.本章ではダイヤモンド半導体の特徴と検出器に応用するためにそれを用いた増幅器回路について解説頂いている.

 最後に,多忙な中,本小特集の原稿を執筆頂いた著者の皆様,編集に携わった小特集編集チーム及び学会事務局の皆様に深く感謝致します.特にソニーLSIデザイン・佐藤弘樹氏,CQ出版・上村剛士氏には,ソサイエティ大会及び本小特集の企画段階から様々な助言を頂いた.この場をお借りし,深く感謝致します.

小特集編集チーム

 中村 洋平  澤畠 康仁  山脇 大造  荒井伸太郎  荒川 元孝  中野 允裕  八巻 俊輔 


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