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解説
社会システムとしての新型コロナウイルス感染者数予測
Prediction of People Infected with the New Coronavirus as a Social System
A bstract
2020年春に始まった今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに対し,世界中の科学者がその解明と解決に向けて取り組んできた.その中でも,感染者数の推移は日々ニュースなどで報道される極めて関心の高い情報であり,その行方についても不安や期待を込めて語られてきた.また,過度な外出抑制は経済への影響が大きいため,どのように感染予防を行えばよいのかが常に問われてきた.本稿では,新たな感染症であることから,取得できるデータが限られる中で,情報学及び社会システム研究の観点から,感染者数や感染予防策の効果推定をどのように行ってきたのかを時系列に沿って振り返り,それらの取組みと課題について紹介する.
キーワード:COVID-19,社会シミュレーション,感染モデル,エージェントベースモデル,逆シミュレーション
2019年12月頃に中国湖北省武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2020年2月には中国国内の31の省で感染が確認され,急速な勢いで中国全土に感染が拡大した.その後,世界各国へも感染が広がり,2020年3月初旬には4,000名を超える死亡者と110を超える国と地域で感染者が確認され,WHOがパンデミックを宣言する事態となった.日本でも,2020年2月頃から感染が広がり始め,特に感染が集中的に発生している東京や大阪などの大都市圏だけではなく,沖縄から北海道まで全ての都道府県で感染者が確認された.このような状況において,厚生労働省や各自治体,研究機関,メディアから,様々な感染予防策が提示された.例えば厚生労働省は,石鹸やアルコール消毒液などによる手洗い,咳などの症状がある場合は咳エチケット(マスク,ティッシュなどで口や鼻を覆う),持病のある人は公共交通機関や人混みの多い場所を避ける,などを推奨してきた.一方で,各企業や自治体も感染防止対策を策定し,濃厚接触者の在宅勤務指示,テレワークや時差出勤,外出や対面の会議を避けるなどが推奨された.また,2020年夏に行われたGo Toトラベル事業では,ウィズコロナの時代における「新しい生活様式」に基づく旅の在り方を普及,定着させるものだとして,「安全・安心な旅行のため」に,毎朝の体温チェック,接触確認アプリの利用,3密の回避,発熱時の客室待機,団体旅行の着実な感染防止対策などの遵守を求めていた.しかし,これらの様々な感染予防策の実証データが限られる中で,新型コロナウイルス感染症への有効性を推定することなく,多くの施策が実施されてきた.本稿では,このような感染拡大初期において,どのように感染対策の有効性を推定してきたのか,また,ワクチン接種など,その後次々と発生する課題に対して,どのように対応してきたのかを振り返りながら,感染症に対する情報学や社会システム研究の可能性について述べる.
2020年3月になって,英国での感染が急拡大し始めた3月13日,英国政府は集団免疫戦略を採用すると発表した.これは,集団の大部分が免疫を持っている場合に,病気が徐々に集団から排除される間接的な保護効果を狙う戦略である.しかし3月16日,政府の方針に疑問を投げかける一つのレポートが英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのWebサイトで公開された(1).アウトブレイクで病院がどれだけひっ迫するかを示す,衝撃的なシミュレーション結果であった.
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