巻頭言 学会は何のためにあるのか?

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Vol.105 No.6 (2022/6) 目次へ

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巻頭言

学会は何のためにあるのか? What Does This Society Mean to Us?副会長 相澤清晴

 副会長を拝命し,おおよそ1年がたとうとしている.先頃学会の本来の姿を感じた出来事を記してみたい.この3月の本会総合大会で「次世代を担う,日本のテック系ベンチャー8選」と題した学生ベンチャを中心にしたスペシャルセッションを企画した.環境,海洋,鉄リサイクル,農業,3D処理,漫画,医療とカバーする範囲はとても広く,企画した側としては,自ら言うのもはばかられるが,期待をはるかに超えた面白いセッションになったと思う.

 当方の研究室では,自らの技術開発を行うスタートアップの起業に専念したいと大学を休学した大学院生が現れたこともあり,学生が起業するテックベンチャに興味もあった.その学生は修士課程1年で,研究活動の経験は浅い.しかし,技術的な能力はあり,何より自分たちのプロジェクトを世に出したいという熱意がある.仕事の成果を,自ら世に出したいと願う点では,大学での研究活動と本質的には同じかもしれない.昨今,大学では学生向けの起業のための講義やイベントはいろいろとあるので,その向きの情報は十分に持っているだろう.しかし,修士課程や学部の学生であると,学会活動はほぼ経験していないかもしれない.専門家の前で,自らのアイデアやその結果を提示して,良かれ,悪しかれ,コメント,質問を受けることを十分には体験していない.技術があるとはいえ,アイデアと熱意が先行して始めたスタートアップの場合,そのビジネスをピッチトークなどで語ることはあっても,純粋に自分たちの技術をプレゼンし,フィードバックとして,批判や共感をもらうような経験はほぼなかったと思う.そのため,今回の講演者の多くは,学会のセッションで話すことに,とても積極的であったと思う.(なお,8人は,全て同じ状況というわけでなく,バリバリの博士課程修了者のスタートアップも含まれていた.)

 セッションの参加者数そのものは100名で,正直もっと多くの参加者があってもよい内容に思えた.そのため,このセッションの意義に関して少しもやもやするところもなくはなかった.しかし,セッションのあとで,参加者とやり取りしたメールでそのもやもやも解消された.例えば,その後,講演者から頂いたメールには,関係性を築きつつある自分たちにとってこのセッションへの参加が貴重であったこと,この発表がきっかけと見られる問合せやインターンの申込みが来たこと,こうした場が継続することを願い,後輩スタートアップの紹介など協力したいことなどが書かれていた.また,学生スタートアップへの投資会社の人もいて,非常に優秀で魅力的なベンチャ・起業家が多く刺激を受けたこと,その中で方向の合うところに個別にコンタクトしたいといったメールを頂いた.大学のTLOの人からは,ベンチャ向けのピッチトークでなく,学会向けに技術に焦点を当てた分かりやすい内容であったと,内容は関連する会社へ紹介したい等々のコメントを頂いた.

 この特殊なセッションに凝縮されていたのは,「広く関係性を築く場」としての学会の本質であるように思う.関係を築くだけであれば,他にもいろいろ場はあろうが,公平に学術的,技術的に発表し意見交換するには,学会が一番効果的であることに疑いはないだろう.コロナの2年で,オンサイトの活動がほぼなかったことは,学会の本質を揺るがしたと思う.先のセッションも,オンサイトでも行えていれば,参加者間の関係作りが,自然に促進されたに違いない.本会は,会員の減少傾向が続いているものの,いまだ会員数は多く,そのカバーする範囲は広い.それだからこそ,研究発表(研究会,大会,論文誌)でのインタラクションと関係性の構築という最も核の部分を大事にしなければならないように思っている.


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