名誉員推薦

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.105 No.7 (2022/7) 目次へ

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名誉員推薦(写真:敬称略)

写真:赤嶺政巳

赤 嶺 政 巳

推 薦 の 辞

 赤嶺政巳君は,1979年琉球大学理工学部電気工学科を卒業,1982年東北大学大学院工学研究科情報工学専攻修士課程を修了,1985年東北大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程を修了し,同年,(株)東芝に入社されました.2005年から(株)東芝研究開発センター技監,2016年から慶應義塾大学大学院理工学研究科特任教授も務められ,2019年から東北大学大学院工学研究科特任教授,現在に至っておられます.企業の研究者として特筆すべき業績を挙げ,退職後は大学中心に電子情報通信の分野において活躍されています.

 同君は,音声合成技術の研究開発を長年先導し,特に,閉ループ学習という音声合成の新たなパラダイムを提唱し,それに基づく音声合成方式を世界で初めて開発し性能の飛躍的向上と産業の発展に多大な貢献をしました.

 それまでの音声合成では,入力から出力までの各種中間信号処理において個別にパラメータを最適化していました.これに対して,同君が開発した閉ループ学習では,最終的な合成音声と教師信号の間のひずみを評価量として定式化することで,これを最小化するようにパラメータを自動的に学習することを可能にしました.その結果,合成音声の品質が格段に向上するだけでなく,それまで数GByte規模のメモリが必要だった合成処理を僅か数百kByte程度のメモリで実現することに成功しました.

 この音声合成の先駆的技術は,東芝製品に限らず,カーナビや電子辞書,ビデオゲーム機等の民生機器やエスカレータやエレベータ等の社会インフラ機器等に広く採用され,産業の発展に大いに貢献しました.関連する特許出願は273件,登録特許は159件に上ります.今日に至って,音声合成の学習方式が統計モデルや機械学習などに置き換わっても,この閉ループ学習というパラダイムは一貫して用いられており,現在発展著しい音声合成のクラウドサービス(例えば東芝のRECAIUS(TM))やスマートスピーカにおいても中心的役割を担っています.

 本会においては,長年論文査読委員を務めるとともに,論文特集号編集委員を務め,学会の運営と活性化に尽力されています.また,1999年から2011年まで総務省情報通信審議会情報通信技術分科会ITU-T部会マルチメディア委員会委員,2011年から2018年まで情報通信技術委員会マルチメディア応用専門委員会委員,2015年から2018年まで国立情報学研究所音声コーパス推進委員会委員,2016年から2018年まで東北大学電気通信研究所運営協議会委員,など技術振興,学術振興に関わる各種会議において重要な役割を果たされています.

 同君は,音声合成に関する研究で本会情報・システムソサイエティの連作論文賞,「高音質音声合成方式の開発・実用化」への貢献で本会業績賞,マイルストーンを受賞するなど音声合成分野で顕著な業績を挙げ,学術発展に大きく貢献しました.また,これらの功績により,文部科学大臣賞研究功績者,市村産業賞功績賞,本会功績賞,全国発明表彰内閣総理大臣発明賞等計12件を受賞するとともに,我が国における音声合成の第一人者として紫綬褒章を受章しています.

 以上のように,同君の音声合成技術に関する研究業績に加え,本会及び電子情報通通信分野の発展への貢献は極めて顕著であり,本会の名誉員の称号を贈るにふさわしい方であると確信致します.

区切


写真:池内克史

池 内 克 史

推 薦 の 辞

 池内克史君は,1973年に京都大学工学部機械工学科を卒業後,1978年に東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程を修了され,同年,米国マサチューセッツ工科大学人工知能研究所に博士研究員として入所されました.その後,1980年から電子技術総合研究所研究官のちに主任研究官,1986年から米国カーネギーメロン大学計算機科学部研究准教授のちに研究教授,1996年からは東京大学生産技術研究所/大学院情報学環教授をお務めになられています.2015年からはマイクロソフト社リサーチアジア(北京)主席研究員,レドモンド本社上級主席研究マネージャーとして御活躍されています.

 同君は,計算機に画像を通して外界を認識理解させるコンピュータビジョンと呼ばれる分野において,明るさ解析などの基礎的理論を深く探究してこられました.特に,同君が物体の陰影から表面形状を推定するShape from Shadingの問題が持つ不定性に対して考案した滑らかさ拘束と呼ばれる解法は,動き解析をはじめとする多くの解析にも使用され,コンピュータビジョン分野の問題解決の一つの定石となっています.滑らかさ拘束を世界で初めて記した国際人工知能誌に掲載された原書論文はOne of the most influential papers in the last decadeに選出されています.

 更に,同君は,ロボティクスの分野においても,タスクモデルと呼ばれる作業理解の枠組みを提唱し,2個の立方体の組立作業,多面体の組立作業,機械部品の組立作業,ひも結び作業,全身動作としての踊りなど,様々な作業や動作に対して,人間の行動を観察することで必要な動きを取得可能な人間行動観察学習ロボットを実現しています.

 加えて,同君は,コンピュータビジョンの手法を駆使した文化遺産のディジタル保存技術に関しても顕著な業績を有しており,奈良や鎌倉の大仏,九州装飾古墳,カンボジアのアンコール遺跡など,数々の大規模文化遺産のディジタル化を実現しました.これらのディジタルモデルはNHK大河ドラマの冒頭シーンや高校・中学の歴史の挿絵,更には東京国立博物館や九州国立博物館の展示物となっており,九州古墳のデータは熊本地震の後の復旧にも使用されました.人間行動観察学習ロボットによる舞踊のモデリングと解析と合わせて,同君が開発してこられた文化遺産ディジタル保存技術は,有形・無形の文化遺産をディジタル保存・利活用・解析するe-Heritageと呼ばれる文理融合の研究分野の創出に欠かすことのできない役割を果たしました.

 同君は上記の業績に対し,紫綬褒章,本会功績賞,本会業績賞,大川賞,船井業績賞,情報処理学会功績賞,IEEE PAMI Distinguished Researcher Award,IEEE PAMI Marr Award,IEEE RAS KS-Fu Memorial Best Transaction Paper Awardなど数多くの賞を受けられています.更に同君は,本会情報・システムソサイエティ副会長,パターン認識国際連盟(IAPR)副会長,アジアコンピュータビジョン連合(AFCV)会長として,国内外で学会の発展に尽力されるとともに,日本学術会議連携会員をはじめ,ITSジャパン副会長等,幾多の要職を務めてこられました.

 以上のように,同君の電子情報通信工学分野の発展並びに新学術分野の創出に対する貢献は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

区切


写真:梅比良正弘

梅比良 正弘

推 薦 の 辞

 梅比良正弘君は,1978年に京都大学工学部を卒業後,1980年に同大学院修士課程を修了され,同年,日本電信電話公社(現NTT)横須賀電気通信研究所に入所されました.1995年に同ワイヤレスシステム研究所グループリーダ/主幹研究員,2002年に同未来ねっと研究所ワイヤレスシステムイノベーション研究部部長を経て,2006年に国立大学法人茨城大学教授,2021年からは南山大学教授として御活躍されています.

 同君は,長年にわたりワイヤレスシステムの研究開発に従事し,多くの業績を上げてこられました.特に,衛星通信用TDMA(Time Division Multiple Access)変復調装置の小形・経済化,陸上移動通信の広帯域化に顕著な業績を上げられました.

 衛星通信の分野では,TDMA変復調装置のディジタル化と高性能化,小形・経済化のためのLSI・IC化手法を考案し,これによりTDMA衛星通信用高速変復調装置の高性能化・小形化が実現し,TDMA技術を種々の衛星通信システムに広く利用することが可能となりました.本技術をベースに開発された,従来では考えられなかった小形TDMA衛星通信地球局装置は,遠隔地におけるISDNサービスの提供や災害対策等に利用され,阪神・淡路大震災時には非常用の通信手段確保にも活躍しました.

 陸上移動通信の分野では,当時考えられなかった数十Mbit/s級の広帯域ワイヤレスアクセスを実現するアーキテクチャ,変復調・誤り制御技術,サービス品質(QoS)制御技術等を考案し,マルチメディア移動アクセス(MMAC)のコンセプトの下に24/27GHz帯を用いた80Mbit/sの広帯域ワイヤレスアクセスシステムを世界に先駆けて試作し,実現性を示しました.また,厳しい周波数選択性フェージング環境下で高速・高品質伝送を実現する技術として符号化OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)技術を提唱し,高速無線LANに関する日米欧の標準機関へ協調を働き掛け,日米欧標準仕様の基本仕様の統一に寄与しました.本技術は近年の各種ワイヤレスシステムの高速化を支える重要な技術の一つとなっています.

 茨城大学では,変復調技術に加えて周波数有効利用を図るためのコグニティブ無線,ダイナミックスペクトルアクセスや車載レーダの干渉低減技術など,無線技術に関する幅広い経験,知識を生かして教育・研究を推進し,南山大学においても,引き続きワイヤレスシステムの教育・研究に取り組んでいます.

 同君は上記の業績により,本会業績賞,功績賞,教育功労賞,フェロー,文部科学大臣表彰,電気通信普及財団賞等を授与されています.また,情報通信審議会専門委員,国立研究開発法人審議会部会長,研究開発評価委員会委員長等を歴任し,電波行政,技術政策面からも電気通信分野の発展に尽力しており,本会においては研究専門委員会委員長,ソサイエティ副会長・会長を歴任するなど,本会の発展にも貢献されました.

 以上のように,長年にわたるワイヤレスシステムの発展への技術面,政策面,及び教育面での功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

区切


写真:尾上誠蔵

尾 上 誠 蔵

推 薦 の 辞

 尾上誠蔵君は,1982年京都大学工学部電子工学専攻を修了,同年,日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)横須賀電気通信研究所に入社されました.

 2002年にはNTTドコモ無線ネットワーク開発部長,2008年に同執行役員研究開発推進部部長,2012年に同取締役常務執行役員(CTO)研究開発センター所長を経て,2014年に同取締役常務執行役員R & Dイノベーション本部本部長,2017年にドコモ・テクノロジ株式会社代表取締役社長,2021年日本電信電話株式会社最高標準化戦略責任者(CSSO)に就任され,現在に至っておられます.

 同君は,日本電信電話公社入社以降,移動通信システムの研究開発並びに普及拡大に尽力され,移動通信システムに関する数々の先駆的な方式・技術の創出や普及推進を通じて移動通信サービスに革新をもたらし豊かなICT社会の創造にまい進してこられました.

 特筆すべき功績は,第3世代移動通信システムの実現に向け,IMT-2000無線アクセス方式としてW-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)を日本から世界に提案され,新方式・技術に関する研究開発成果を世界に先んじて示すことで,その技術先導性を強力にアピールし,結果,国際標準として採用されるに至る成果を上げられました.

 更に,第4世代移動通信システムの実現に向けては,第3世代システムの更なる能力向上と第4世代システムへの円滑な移行を狙ったSuper3Gコンセプト(第3.9世代システム)を打ち出され,増加著しいトラヒックを収容できるよう,電波資源の有効利用につながる多くの革新的技術の創出と,国際標準仕様策定,及び装置開発と実用化を統括・指揮され,高速・大容量・低遅延の無線アクセスネットワークであるLTEを完成されました.

 同君は上記前者の功績により既に2001年度本会第39回業績賞,2002年度逓信協会第48回前島密賞,2008年度文部科学省文部科学大臣表彰科学技術賞を,更に,後者の功績により2011年度本会第49回業績賞,2014年度文部科学省文部科学大臣表彰科学技術賞,2018年紫綬褒章を授与されており,これらの功績が移動通信関連の産業界,学術界へ大きく貢献していることが認められています.

 その後も,LTEの発展形であるLTE-Advancedの国際標準仕様策定と開発実用化,第5世代移動通信システムに向けた次世代移動通信ネットワークの研究と実証実験をけん引し,移動通信システムの継続的発展と高度化に大きく貢献されております.

 加えて,本会では,2009年5月~2011年5月に通信ソサイエティ副会長及び通信ソサイエティ国際委員会委員長を歴任するとともに,総務省情報通信審議会電波伝搬委員会専門委員及び衛星通信システム委員会専門委員,一般社団法人電波産業会高度無線通信研究委員会副委員長,規格会議委員長及び普及戦略委員会委員長代理,GSM AssociationやNGMN AllianceのBoard of Directorsを務めるなど,国内外の移動通信分野,電子情報通信分野の発展への功績は顕著であり,本会の名誉員にふさわしい方であると確信し推薦致します.

区切


写真:桑原秀夫

桑 原 秀 夫

推 薦 の 辞

 桑原秀夫君は,1974年に東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻修士課程を修了され,同年,(株)富士通研究所に入社されました.光ファイバ通信システムの研究開発にれい明期から従事され,1984年に東京大学から工学博士の学位を授与されています.1991年に同社光システム研究部長,1999年に米国Fujitsu Network Communications, Inc. のSenior Vice President,2003年に(株)富士通研究所ネットワークシステム研究所長代理,2004年に同社取締役,2006年から同社フェローを務められた後,2017年に同社を退職し,名誉フェローに就任され,現在は富士通株式会社名誉フェローとして活動されています.

 同君は,長年にわたり光ファイバ通信の大容量化の研究とその実用化をけん引するとともに,フォトニクス分野における日本のプレゼンスを高める活動で活躍されてきました.

 現在の長距離光ファイバ通信で主流となっているコヒーレント光変復調技術に関して,同君は1980年代にいち早く先駆的研究を手掛け,各種変復調デバイスのモジュール化により,現在も広く用いられている光位相変調―偏波ダイバーシチ復調方式を実現しました.それまで実験室内での原理確認レベルにとどまっていた同技術を実システムへ実装可能な実用レベルにまでに高め,その業績により1990年に櫻井健二郎氏記念賞を受賞されています.1990年代に入ると,光増幅技術と波長多重伝送技術に取り組み,世界中の研究機関が開発競争を繰り広げる中,同君の率いる研究グループは1995年に世界初の1.1Tbit/s伝送の記録を樹立し,ギネスブックに掲載されるなど注目を集めました.更に,その後の実用化研究を通じ,国内のシステムメーカやデバイスメーカの日本・米国におけるビジネス・市場獲得にも大きく貢献し,日本の高い技術力をグローバルに知らしめるに至りました.同技術の実用化により,光ファイバ通信は30年で1万倍という飛躍的な大容量化を実現し,インターネット,携帯電話を発展させ,今日の高度情報化社会を支える必要不可欠な社会基盤となっています.

 学会活動では,本会において,光通信システム研究専門委員会委員長,調査理事,会計理事,監事,副会長など要職を歴任し,本会の発展に尽力されてきました.国外においても,日本人として史上二人目となるIEEEフォトニクスソサイエティの会長に就任されるなど,傑出したリーダーシップを発揮し,フォトニクス分野における日本のプレゼンスを高めることに大きく貢献されました.本会からは1997年に業績賞,2020年に功績賞を授与され,本会,及びIEEEからフェローの称号を授与されています.更には,内閣府総合科学技術会議革新的技術推進アドバイザーをはじめ,国内外での数々の学術活動を通じ,フォトニクス分野を中心とした科学技術の振興にも多大な影響を及ぼされ,後進の育成にも努められてきました.

 以上のように同君は光ファイバ通信技術の研究と実用化において日本が世界をリードする基盤作りに大きく寄与されてきました.電子情報通信分野の学術面並びに産業面の発展への功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

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写真:笹瀬巌

笹 瀬  巌

推 薦 の 辞

 笹瀬 巌君は,1984年に慶應義塾大学大学院工学研究科博士課程を修了,オタワ大学ポストドクトラルフェロー,慶應義塾大学理工学部助手,専任講師,助教授を経て,1999年に教授になられました.その後,情報通信メディア工学専修主任,情報工学科主任,理工学メディアセンター所長,研究連携推進本部副部長等も務められ,2022年3月に定年退職され,4月から名誉教授になられました.

 同君は,情報通信ネットワーク分野において,衛星・マイクロ波通信,移動通信,ワイヤレスアドホック・センサネットワーク,無線ホームリンク,ネットワークセキュリティ,IoT,フォトニックネットワーク,ATMスイッチ,非対称ディジタル加入者線(ADSL),レーダ,信号処理,通信用電源,カオス等,多岐にわたる研究を行い,産官学連携を遂行し,これまでに,302編の原著論文,448編の国際会議論文等,著しい研究成果を上げておられます.特に,高速無線ホームリンク方式,国内でのADSL実用化,移動通信に適した変調・アクセス方式,光符号分割多元接続(CDMA),カオス暗号等の独創性の高い先駆的研究は,国際的にも高い評価を得ておられます.特に,顕著な業績としては,ADSLにおける干渉問題を伝送マップ切換と誤り検出訂正の採用により解決し,一般家庭でのインターネット普及に大きく貢献したこと,直交周波数分割多重と予約型ランダムアクセス方式の採用により,世界に先駆けて,高速無線ホームリンク方式として「Wireless 1394」方式を開発・国内標準化を実現したこと,共同研究により,変調・アクセス・干渉除去技術を駆使して動画像伝送に成功し,日本が世界初の3Gサービス開始につながったこと,無線タグとブロックチェーン技術による安全な在庫・物流管理等IoT・セキュリティ分野の研究を活性化させたことが挙げられます.

 こうした実績を背景に,本会において,会長,創立100周年記念事業実行委員会委員長,通信ソサイエティ会長,ネットワークシステム研究専門委員会委員長,通信方式研究専門委員会委員長などを歴任され,また,IEEEでは,Tokyo Section Chair,IEEE Communication Society Board of Governors Member-at-Large,Asia Pacific Regional Director,Satellite and Space Technical Committee Chairなど歴任され,学会運営と研究開発の活性化に多大の貢献をされました.また,官庁でも電波監理審議会委員等の要職を務められておられます.

 一方,教育面においては,情報通信工学分野における基礎から応用までの広い範囲の教育に携わられ,情報通信革命をけん引するリーダーシップを発揮できる人材を育成され,50名以上の博士学位取得者,及び,200名以上の修士課程修了者を輩出されたことは特筆に価します.また,2018年5月には,「難関国際会議への論文投稿を通じた若手の育成―持続可能な研究コミュニティの確立―」の原稿が,国際的な場での発表を行うことの意義が分かりやすくまとめられており,若手研究者はもとより,指導・育成をする立場の方にも有意義な内容であるとの理由により,「電子情報通信学会通信ソサイエティマガジン賞」の賞創設第1号として選ばれています.

 以上のように,同君の情報通信ネットワーク分野で果たした先駆的な研究業績,研究教育指導を通した人材育成,本会の運営及び電子情報通信分野の学術及び産業の発展に寄与された功績は極めて顕著であり,ここに本会名誉員として推薦致します.

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写真:鈴木正敏

鈴 木 正 敏

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 鈴木正敏君は,1984年に北海道大学大学院工学研究科博士課程を修了し博士号を取得され,国際電信電話株式会社(現KDDI株式会社)に入社されました.2007年にKDDI株式会社研究開発フェロー,2011年に(株)KDDI研究所取締役副所長,2018年に公益財団法人KDDI財団理事長,2022年に早稲田大学理工学術院客員教授に就任され,現在に至っております.

 同君はこの間,光デバイスから光ネットワークに至る世界を先導する数多くの先駆的研究と実用化により光通信システムの大容量化をけん引し,光通信工学の学術的発展と今日のインターネットの普及を支えるグローバル情報通信ネットワークの実現に顕著な功績を挙げられました.

 同君は半導体光変調器のパイオニア研究者として,単一波長レーザとギガビット帯吸収形光変調器の半導体モノリシック集積光源,並びに,超小形ソリトン光源を世界で初めて実現し,開発成果を光海底ケーブルに商用導入するなど,基礎研究から商用開発までを一貫して実施されました.トランジスタ電子ICから約30年後に実現された光IC第1号となる研究成果は,今日の高速集積レーザの世界的普及や光ICの高密度化につながる先駆的な功績として知られております.

 特筆すべき業績として,同君は,形を変えない光ソリトンの既成概念を打破し,パルス幅が伸縮するガウス形光パルスと周期的分散補償により高速信号の長距離伝送を可能とする分散制御光ソリトン方式を考案されました.同方式は,非線形光ファイバの新しい周期的定常解の発見となる画期的な新方式として世界中で注目され,当時の通信分野での論文被引用数が日本人最多となり,その後の高速光ファイバ通信を一変させました.また,同君は波長多重システムの高速化・多波長化により1Tbit/s信号の1万km伝送に初めて成功し,研究成果を2000年代に敷設されたJapan-USケーブル等の太平洋・大西洋横断及びアジア地域の数十万kmを超えるほとんど全ての光海底ケーブルで実用化され,グローバル大容量通信ネットワークの構築に大きく貢献されました.

 同君は,先見的見識により,現行光ファイバの物理的容量限界を克服する光空間多重技術の先導研究と世界的な普及啓発活動に尽力され,光通信「京」時代の幕開けとなる10Pbit/s(ペタ(P):1016math京)の超大容量光伝送や6Gモバイル向けの超大容量光無線融合技術を世界で初めて成功へ導くなど,後進の育成にも優れた指導力を発揮されております.

 本会では,光通信システム研究専門委員会及び光通信インフラの飛躍的な高度化に関する特別研究専門委員会の委員長や監事を歴任され,本会活動の発展に貢献されました.更に,関連協議会の部会長として多数の国家プロジェクトを提言され,産学官連携による我が国の国際競争力の強化に尽力されました.海外では,IEEE Photonics Society理事や論文誌編集長及び多数の国際会議の委員長を務め,情報通信の世界的発展に貢献されました.

 これらの功績により,同君は紫綬褒章,文部科学大臣表彰,先端技術大賞経済産業大臣賞,櫻井健二郎氏記念賞,前島密賞,市村産業賞,電気通信普及財団賞及び本会論文賞,業績賞,功績賞を受賞されたほか,本会並びにIEEEとOPTICA(旧OSA)からフェローの称号を授与されています.

 以上のように,同君の光通信分野をはじめとする電子情報通信分野の発展への貢献は極めて顕著であり,本会の名誉員にふさわしい方であると確信し推薦致します.

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写真:牧野昭二

牧 野 昭 二

推 薦 の 辞

 牧野昭二君は,1981年に東北大学大学院工学研究科修士課程を修了され,同年,日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)に入社されました.1996年から同社ヒューマンインタフェース研究所主幹研究員,2003年からコミュニケーション科学基礎研究所メディア情報研究部長を務められました.2009年に筑波大学大学院システム情報工学研究科教授,2021年に早稲田大学大学院情報生産システム研究科教授に就任され,現在に至っておられます.

 同君は40年以上にわたり音響メディアにおける統計的信号処理に関する研究に取り組まれ,卓越した構想力と強力なリーダーシップにより,本分野の革新的技術の開拓・体系化に顕著な成果を挙げられました.

 同君はNTT入社後,二次統計量に基づく高速収束音響エコーキャンセラ理論についての研究を推進され,音波の減衰特性と音声の性質に着目することにより,高速適応追随性を実現する適応アルゴリズムを開発され,音声による自動学習機能を備えた高性能音響エコーキャンセラ装置を実現されました.これにより,通話を妨げずに瞬時にエコー消去を行うことが可能となり,遠隔地とあたかも同一室内にいるようなシームレスな音声通信環境が実現されました.更に,新しい適応アルゴリズムを搭載したボードを米国AT & Tと共同開発されました.この装置は全世界で市場導入されたほか,国内でも,この技術を基に5万以上の音響エコーキャンセラ装置が販売されました.これらは従来の通話性能を飛躍的に向上させるもので,社会に大きなインパクトを与えました.

 また,高次統計量を基礎とした教師なし学習理論である独立成分分析に基づくブラインド音源分離の動作メカニズムを空間音響学の観点から分析し,その動作原理が,従来から研究されてきた適応ビームフォーマと呼ばれるマイクロホンアレーの並列同時学習と等価であることを世界で初めて明らかにされました.この動作原理の解明により,適応ビームフォーマで培われた様々な音響信号処理技術を音源分離技術に援用することが可能となり,その結果,ブラインド音源分離技術の分離性能を大幅に向上させることに成功し,世界最高性能を達成されました.更に,新しい音響信号処理・統計推定理論を確立し,当該分野の世界的な研究を先導し,新しい研究分野を築かれました.

 これらの業績により,本会から功績賞,2回の業績賞,及びフェロー称号を授与されるとともに,IEEEフェロー,IEEE Distinguished Lecturer,IEEE SPS Leo L. Beranek Meritorious Award,ICA Unsupervised Learning Pioneer Award,IEEE MLSP Competition Award,文部科学大臣表彰,服部報公賞,日本音響学会技術開発賞など多数の賞が授与されています.

 本会においては,基礎・境界ソサイエティ副会長,フェロー推薦委員会委員などを歴任され,本会の発展に尽力されました.国際的にも,国際会議の組織委員長,基調講演,チュートリアル講演,IEEEやEURASIPのTechnical Committee Chair,Associate Editor,Steering Committee,IEEE Signal Processing Society Board of Governor,IEEE Jack S. Kilby Signal Processing Medal Committee,IEEE James L. Flanagan Speech and Audio Processing Award Committee,IEEE SPS Fellow Evaluation Committeeなどの要職を務められ,音響信号処理の研究コミュニティの発展にも大きく貢献されてきました.

 以上のように,同君の本会並びに電子情報通信分野における貢献は極めて顕著であり,本会の名誉員として推薦致します.

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写真:守倉正博

守 倉 正 博

推 薦 の 辞

 守倉正博君は,1979年に京都大学工学部電気工学第二学科を卒業,1981年に同大学院修士課程を修了され,同年,日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社)横須賀電気通信研究所に入所されました.2007年からは京都大学大学院情報学研究科教授,2021年には京都大学名誉教授となり,現在もなお電子情報通信分野の発展に尽力されています.

 同君は,長年にわたり無線通信分野の研究や教育に努め,多くの業績を挙げてこられました.NTT研究所においては,衛星通信システムと無線LANシステムの研究開発に従事されています.衛星通信システムでは,衛星通信用地球局TDMA装置の同期制御部を小形実用化した汎用LSIの開発を推進しています.1980年代前半は,国際通信では既に衛星通信が活躍していましたが,国内通信では離島対策や災害対策への適用が中心でした.一方で,地上系では光通信サービスが開始されており,早期の全国展開が求められていました.そこで,開発された汎用LSIを用いてNTTにおけるISDN網の中継系,アクセス系に衛星回線を適用する「DYANET I/II」という衛星通信方式を確立されています.これにより離島や山間部含めた日本全国でのISDNサービスの提供が可能になりました.

 更に,無線LANシステムにおけるOFDM方式の研究開発に従事され,国内外の標準化の策定に大きく貢献されました.1990年代後半からADSLやFTTH等の発展は著しく,オフィスや家庭の入口までのブロードバンド化は達成されても,家庭内のブロードバンド化は宅内の配線問題から大きな課題でした.この課題に対して,OFDM方式を,無線LANに必須なパケットモードに適用した「パケットモードOFDM方式」を構想し,非常に優れた無線伝送の実用化に成功,その方式の国際標準化に大きく貢献しています.同君は,OFDM無線LANシステムの実用化,国際標準化において,IEEE 802.11a規格の国際標準化,世界初のIEEE 802.11a規格に基づいた無線LANシステム相互接続実証実験の実現,国内初の公衆無線LANを用いたホットスポットサービスの商用化まで全てを実現されています.併せて,国内の標準化でも郵政省・電気通信技術審議会や,その後の総務省・情報通信審議会の作業班委員や主査として5GHz帯の周波数を利用する際の技術基準の策定に大きく貢献しています.その後の無線LANや移動体通信で用いられるLTE/LTE-A,5GNR等の無線方式,将来の6G無線方式の候補においても,全てがOFDM方式を基礎としており,このパケットモードOFDM方式は,無線通信分野の実用化にも多大な影響を与えています.

 同君は京都大学においても無線通信分野の更なる発展に尽力され,特に,無線LAN技術を中心とする研究指導や人材育成,加えて,各政府機関での行政施策に貢献しており無線政策,行政に対しても精力的に推進されました.

 同君はこれらの功績により,IEEEからIEEE 802.11 WG功労者表彰,本会からフェローの称号を授与され,紫綬褒章,前島密賞,文部科学大臣賞,総務大臣賞,本会業績賞,功績賞など数多くの表彰を受けられています.また本会においては出版委員会幹事,会計理事,通信ソサイエティ会長を歴任されるなど,本分野の発展にも貢献されました.

 以上のように,同君が企業や大学において進めてきた活動は,情報通信分野の発展,社会課題解決への貢献,人材輩出など,その功績は極めて顕著であり,本会の名誉員にふさわしい方として推薦致します.

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写真:山本博資

山 本 博 資

推 薦 の 辞

 山本博資君は,1980年に東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程を修了され,徳島大学工学部助手(1980年),講師(1981年),助教授(1983年),電気通信大学助教授(1987年),東京大学工学部助教授(1995年)を経て,1999年に同大学院工学系研究科教授に昇任されました.2018年まで同大学大学院教授として教鞭をとられ,現在は,東京大学名誉教授,早稲田大学大学院基幹理工学研究科客員教授,中央大学研究開発機構客員研究員(機構教授)として,研究活動・教育活動を継続されています.この間,学部・大学院学生の指導に尽力され,電子情報通信分野を担う多くの後進を育てられました.

 同君は,情報理論的暗号理論,データ圧縮符号,シャノン理論,マルチユーザ情報理論,フィードバック通信理論など,本会の重要な理論的基盤である情報理論の幅広い領域で,数々の先駆的な研究に取り組んでこられました.

 情報理論的暗号理論の分野では,同君は第一人者として長く活躍してこられました.1985年に提案されたランプしきい値秘密分散法は,情報の多重符号化というアイデアに基づくもので,従来のしきい値秘密分散法よりも効率良く情報を分散符号化できます.この方式は,強安全性という新しい安全性条件を満たすことが示されています.2008年には,強安全性を有するネットワーク符号化方式を提案されています.同君は,このほかにも相関を有する情報に対する安全な符号化法の提案,シャノン暗号システムに対するレート・ひずみ理論の導入など,数々の先駆的な研究成果を発表してこられました.

 データ圧縮符号の分野における同君の代表的な成果として,2015年に提案された準瞬時FV符号(AIFV符号)が挙げられます.ハフマン符号が平均符号語長最小の符号であることは広く知られていますが,複数の符号木を用いるAIFV符号では,一般にハフマン符号より平均符号語長を小さくできます.この結果は既存の情報理論の常識を破るもので大変斬新です.同君はまた,競合的最適符号,正整数の符号化などについても,新しい理論や符号化法を提案され,有効性を示されています.

 フィードバック通信理論における,畳込み符号に対するHybrid-ARQビタビ復号法(1980年)も同君の代表的な研究成果であり,携帯電話のデータ通信などに広く用いられています.

 これらの業績によって,同君は,本会から論文賞(2009年),業績賞(2017年),功績賞(2020年)を受賞されるとともに,本会フェロー(2005年),IEEE Fellow(2011年),IEEE Life Fellow(2018年)の称号を授与されています.

 同君はまた,本会監事,基礎・境界ソサイエティ会長,英文論文誌A編集委員長,情報理論研究専門委員会委員長,情報理論とその応用学会会長などの要職を歴任されました.情報理論分野の国際会議ISITA2004, ISITA2008のプログラム委員長,IEEE Transactions on Information TheoryのAssociate Editorを務められるなど,国際的な活動にも尽力されてこられました.

 以上のように,同君の電子情報通信分野の発展における貢献は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

区切


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