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本会選奨規程第7条(電子工学及び情報通信に関する学術又は関連事業に対し特別の功労がありその功績が顕著である者)による功績賞(第83回)受賞者を選定して,2021年度は次の5名の方々に贈呈した.
小川博世君は,1974年に北海道大学工学部電子工学科を卒業後,1976年に同大学院工学研究科修士課程を修了され,同年日本電信電話公社(現NTT)横須賀電気通信研究所に入所されました.1990年に国際電気通信基礎技術研究所(ATR)で主幹研究員を務められ,1993年にNTT無線システム研究所グループリーダーを経て,1998年に郵政省通信総合研究所に異動されました.その後,2005年に情報通信研究機構(NICT)横須賀無線通信研究センター長,2008年に電波産業会次長を歴任され,2015年からはNICT客員研究員となられ,無線通信の国際標準において活躍されています.
同君はNTT,ATR,NICTの各研究所において,長年にわたりマイクロ波からミリ波に至る無線通信システム及び装置の研究開発に取り組まれ,高周波回路技術,光ファイバ無線システム,及び近距離大容量伝送システムなどの提案と実証において先駆的役割を果たし,多くの優れた研究成果を上げてこられました.同君の特筆すべき貢献として,これら技術の国際規格化とテラヘルツ波帯まで広がる無線システム用スペクトルの国際標準化における優れた功績が挙げられます.
まず,マイクロ波集積回路(MIC)の分野においては,基板の両面を活用した両平面回路技術による全MIC化送受信装置の実用化に大いに貢献し,更に単一平面上で回路機能を高集積化できるユニプレーナ型ミリ波モノリシック集積回路技術を考案し,その後のミリ波無線通信装置の構成に多大な影響を与えています.
次に,光とマイクロ波・ミリ波の融合領域における光ファイバ無線技術の分野においては,ミリ波信号をホットスポットエリアに分配するための有効な伝送方式としてミリ波サブキャリヤ伝送方式の提案を行い,その有効性を実証されました.また,この分野を議論するためのマイクロ波フォトニクス(MWP)時限研究専門委員会及びMWP国際会議の立ち上げ及び定着化に中核的役割を果たしました.更に,国際電気標準会議及びアジア・太平洋電気通信標準化機関において光ファイバ無線技術の規格を議論するグループを立ち上げ,我が国技術の国際普及に貢献しています.
更に,ミリ波近距離大容量伝送システムの分野においては,当初から研究成果の世界標準を目指してIEEE802の60GHz規格を議論するためのグループ設置に大いに貢献しました.更にテラヘルツ波帯の移動・固定無線システムへのスペクトル開放を目的に世界無線通信会議において,無線通信規則の改定に主導的役割を果たし顕著な功績を挙げられました.一方,国内の電波行政分野においても,60GHz帯規制緩和における技術基準の策定へ先導的な貢献をされています.
同君はこれらの研究と標準化への功績により,1992年度及び1995年度本会論文賞,2005年度本会業績賞,2007年度及び2020年度前島密賞,2018年度及び2020年度ITU協会賞功績賞,2019年度産業標準化事業表彰経済産業大臣表彰,2020年度情報通信技術賞TTC会長表彰などを受賞されました.一方,総務省情報通信審議会専門委員として電波行政の面からも,無線通信分野の発展に尽力されました.また,研究専門委員会委員長を歴任するなど本会の発展にも貢献されました.本会並びにIEEEからフェローの称号を授与されています.
以上のように,同君の電子情報通信分野及び標準化分野における功績は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します.
杉山昭彦君は,1979年に東京都立大学工学部電気工学科を卒業後,1981年に同大学院工学研究科電気工学専攻修士課程を修了され,同年日本電気に入社されました.入社以来,同社中央研究所において,伝送装置,パーソナルコンピュータ(PC),携帯電話,パーソナルロボットなどを対象とした信号処理技術の研究開発に従事されてきました.2019年からは,Yahoo! JAPAN研究所で信号処理技術の研究活動に従事されています.2016年以降は首都大学東京客員教授も兼務されています.1987学術年度にはカナダ・モントリオールのコンコーディア大学で,訪問研究員として適応信号処理技術の研究に従事されました.2008年には,それまでの研究成果に対して首都大学東京から博士(工学)の学位を授与されています.2002年からは非常勤講師として,国内8大学で講義されてきました.加えて,世界30か国87都市での招待講演167件及び世界各国からのインターン学生75人の指導を通じて,信号処理技術と実用化の教育にも貢献されました.
同君は,オーディオ符号化とその応用において,極めて大きな貢献をされました.開発した可変ブロック長適応変換符号化は,関連特許3件がMPEG-4必須特許に認定されて,オーディオプレーヤ,携帯電話,PC,ディジタルテレビ,カーナビゲーションシステム,Webサービス等様々な製品に世界中で現在も利用されています.世界初の完全半導体オーディオプレーヤとして,同君が1994年に開発したシリコンオーディオは,2001年に発売されたiPodの先駆けです.また,1989年から2008年にはISO/IEC JTC1/SC29 WG11(通称MPEG)のオーディオ部門に日本代表団の一員として参加されました.同君が中心となって執筆したMPEG-1/MPEG-2/MPEG-4のオーディオパートに対応した日本工業規格4編と,12冊の書籍に含まれるオーディオ符号化の章は,MPEGオーディオの日本語解説として,標準の普及に貢献しました.
更に,同君は,雑音抑圧・消去においても大きな成果を上げられました.2001年には,重み付雑音推定を用いた高音質ノイズサプレッサを開発して,3GPP公式認証を取得されました.この3GPP認証ノイズサプレッサは,2002年に世界で初めて携帯電話に搭載されて累積3,000万台出荷されたばかりでなく,市場占有率世界1位のボイスレコーダにも搭載されました.ノイズサプレッサの音声ひずみと残留雑音をユーザが制御する機能は,MPEG-4 SAOC(空間音響オブジェクト符号化)に採用されています.更に雑音の苛酷な環境のためには,一般化たすき掛けパイロットフィルタ構造を有するノイズキャンセラを開発され,音声認識に適用して認識率を最大65%改善できることを示されました.チャイルドケアロボットとして2005年の愛知万博で半年間のデモを完遂することによって,展示会環境での音声認識実用性を世界で初めて実証されました.引き続き1チップ対話モジュールを開発して,世界初の手のひらに乗る対話ロボット実現に貢献されています.
同君は,これらの業績に対して,本会フェロー,同業績賞2回,同論文賞,文部科学大臣表彰,市村産業賞,関東地方発明表彰,電気科学技術奨励賞3回,IEEE Fellow,同Distinguished Lecturer 2回(Signal Processing Society(SPS)とConsumer Electronics Society),同Distinguished Industry Speakerなどを受賞されています.
更に,同君は,本会基礎・境界ソサイエティ事業担当幹事,同フェロー推薦委員会委員,同信号処理研究専門委員会委員長,IEEE Fellow Committee Member,同J. C. Maxwell Medal Committee Member,同SPS Conference Board Secretary,同Awards Board Member,同Audio and Acoustic Signal Processing Technical Committee Chair,同Japan Chapter Chairなどを歴任されてきました.
以上のように,同君の電子情報通信工学分野における貢献は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.
中野義昭君は,1982年に東京大学工学部電子工学科を卒業後,1984年に東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻修士課程を,また1987年に同専攻博士課程を修了され,工学博士の学位を取得されました.同年に東京大学工学部助手に就任し,1988年には同専任講師に,1992年には同助教授に,2000年には同大学院工学系研究科教授に昇任されました.その後,2002年に同大学先端科学技術研究センター教授に配置換えになり,2010年から2013年までは同センターの所長を務められました.2013年に同大学大学院工学系研究科教授に戻られ,今日まで教育研究活動を続けておられます.
同君はこの間,化合物半導体に基づく光電子デバイス,特に半導体レーザ,光制御デバイス,光集積回路の研究を行われ,数々の優れた成果を上げてこられました.1980年代には,利得結合分布帰還形半導体レーザの試作に成功し,その後の分布帰還形レーザの進歩に貢献されました.1990年代は,有機V族原料を用いた有機金属気相エピタキシーのメカニズム解明とそのInP系モノリシック光集積回路への応用に研究の重点を移し,光波長チャネルセレクタ回路等を実現されました.2000年代は,全光フリップフロップ,光論理ゲート等のディジタル光デバイス・回路の先駆的研究を行ってこられました.2010年代には,光フェイズドアレー回路,ストークスベクトル光送受信回路,光ユニタリ変換回路など,新世代の光通信,光信号処理,光イメージングに向けた独創的な集積光デバイスの提案・研究を行って,世界をリードしてこられました.これらの御業績は,応用物理学会光学論文賞(1992年),本会フェロー称号(2005年),本会エレクトロニクスソサイエティ賞(2006年),市村学術賞(2007年),産学官連携功労者表彰内閣総理大臣賞(2007年),光産業技術振興協会櫻井健二郎氏記念賞(2007年),応用物理学会フェロー称号(2009年),Compound Semiconductor Week IPRM Award(2019年)など,数々の御受賞に結び付いています.
本会における活動としては,光集積回路関連の研究専門委員会において,発足2期目の1988年(当時の名称は集積光エレクトロニクス時限研究専門委員会)から今日(現在の名称は光集積及びシリコンフォトニクス特別研究専門委員会)まで継続して,委員や幹事として中心的に活動し,2004年には委員長をお務めになられました.2007年から2008年にかけて,一種研であるLQE研及びPN研の委員長,英文論文誌C編集委員長を務められた後,2013年には国際会議OECCのGeneral Co-Chair, 2014年には本会エレクトロニクスソサイエティ会長,2017年には本会副会長に就任し,本会の運営,発展に努めてこられました.本会のほかに,IEEE,エレクトロニクス実装学会,応用物理学会,多数の国際会議などの要職を務め,国内外で電子情報通信関連学術の振興に貢献してこられました.現在は,日本学術会議会員(第三部)として,同会議下の電気電子工学委員会の委員長をお務めになり,電気電子工学を取り巻く諸課題に取り組むとともに,本会を含む我が国の電気電子系学協会を結ぶ活動の中核となっておられます.
以上のように,電子情報通信関連の学術研究及びコミュニティに長年尽くしてきた同君の功績は誠に大きく,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.
中村 寛君は,1987年3月に早稲田大学大学院理工学研究科電気工学専攻修士課程を修了し,同年4月に日本電信電話株式会社通信網第二研究所に入社されました.1992年にNTT移動通信網株式会社(現NTTドコモ)分社と同時に転籍し,2000年にDoCoMo Europe SA社長に就任され,2008年には早稲田大学にて博士号を取得されました.2010年にNTTドコモネットワーク開発部長,2014年に同執行役員R&D戦略部長,2017年に同取締役常務執行役員(CTO)R&Dイノベーション本部長に就任されました.2020年から現所属のドコモ・テクノロジ株式会社に移り,2021年に同代表取締役社長及びNTTドコモChief Technology Architectに就任され,現在に至っておられます.
同君は,日本電信電話株式会社に入社以来,一貫して移動通信分野の研究開発に従事され,その卓越した技術力・指導力により,第2世代から第5世代に至る携帯電話システムの研究開発及び国際標準化,並びに実用化を成し遂げてこられました.
特筆すべき功績は,第3世代携帯電話システムの実現に向け,一つの移動端末が世界中どこでも使用できる世界標準に準拠した新しい移動通信方式とするべく,第2世代携帯電話システムのGSM/GPRSのコアネットワークをベースとして,そこに第3世代携帯電話システムの国際標準化された機能を追加すること,及びIMT-2000(International Mobile Telecommunications 2000)方式の基盤技術として適用されている移動通信用ATM(AAL2)の標準化を推進することでIMT-2000の規格を完成させました.
更に,第4世代携帯電話システムの実現に向けては,第3世代携帯電話システムの更なる能力向上と第4世代携帯電話システムへの円滑な移行を狙ったSuper3Gコンセプト(第3.9世代携帯電話システム)に基づき,特に新たなコアネットワーク規格であるSAE(System Architecture Evolution)の設計,標準化に向けた技術規格の提案,移動通信用コアネットワーク装置の開発・実用化を推進され,LTE(Long Term Evolution)を完成されました.LTEネットワークにおける音声通信システムVoLTE(Voice over LTE)の実現に向けては,業界標準仕様の策定活動にて日本市場の要求条件の入力に成功されるとともに,スマートフォン,無線アクセスネットワーク,コアネットワーク全ての開発に関わる大規模開発プロジェクトを統括され,VoLTEを完成されました.
第5世代携帯電話システムの実現に向けては,開発プロジェクトを統括するとともに,多様な業界とのパートナシップによりユースケース開拓のための実証試験を推進し,体感型のリアルなデモンストレーション等を国内外様々な形で紹介することで,第5世代携帯電話システムの幅広い有用性をアピールしてこられました.
同君は上記の業績により,2010年度日本ITU協会賞功績賞,2011年度情報通信技術委員会功労賞,2011年度本会第49回業績賞,2012年度通信文化協会第57回前島密賞,2014年度文部科学省文部科学大臣表彰科学技術賞,2015年度電気通信協会ICT事業奨励賞,2021年度通信文化協会第66回前島密賞,2021年度情報通信技術委員会情報通信技術賞総務大臣表彰を授与されており,これらの功績が移動通信関連の産業界,学術界へ大きく貢献していることが認められています.
加えて,本会では,2010年4月~2012年3月にICT分野における国際標準化と技術イノベーション時限研究専門委員会において専門委員を務め,2017年度には通信ソサイエティにおいてフェローの称号を授与されました.
以上のように,同君は,研究開発と標準化,並びに実用化を通じて世界トップレベルの多くの技術的成果を続出し,新システムの技術アピールへの貢献も含め情報通信分野への功績は顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.
松島裕一君は,1978年に早稲田大学大学院理工学研究科電気工学専攻の博士課程を修了し工学博士の学位を授与され,同年,国際電信電話株式会社(KDD)に入社されました.以来KDD研究所において主に光通信用の半導体光デバイスの研究開発に従事され,1998年に(株)KDD研究所取締役,2001年には(株)KDDI研究所代表取締役副所長に就任されました.更に,2003年に独立行政法人通信総合研究所(CRL)に移籍され,情報通信部門長,2006年には改組された独立行政法人情報通信研究機構(NICT)の理事に就任されました.その後2010年から2019年までは早稲田大学研究戦略センター教授及び同大学グリーン・コンピューティング・システム研究機構長として御活躍なされました.現在も同大学のプロジェクト研究所の顧問として後進を指導されています.
同君は長年にわたり光通信システム分野において,半導体光デバイスの先駆的な研究開発,更には次世代光通信技術への挑戦を続けてきており,本分野の発展に多大な貢献をされました.KDD研究所においては,化合物半導体をベースとした新たな受光素子,半導体レーザ,光変調器等に関する研究開発を推進し,高信頼度化など実用化へ向けた数々の難関を乗り越え,当時れい明期にあった大洋横断光海底ケーブルシステムへの導入を世界で初めて実現しました.これらの光デバイス技術は1.55µm単一波長システムから波長多重方式によるテラビットクラスの超大容量システムにまで幅広く用いられています.特に国際間大容量光海底ケーブルシステムの海底中継器や端局装置には不可欠なデバイスとして使用され,拡大する国際間通信インフラの構築に多大な貢献をされました.
NICT移籍後は,情報通信技術全般のリーダとして,光ネットワーク,ヒューマンインタフェース,情報セキュリティなど多岐にわたる分野をけん引して,我が国の情報通信技術のプレゼンスの向上に尽力されてきました.特に,光通信分野では,「光ルータの先駆的研究」やマルチコアファイバに代表される「空間多重方式(SDM)」の重要性を指摘し,その実現に向けて果敢に挑戦されました.このSDM方式に関しては,幅広い産官学のメンバーが結集した研究会を主宰し,国のプロジェクトをも立ち上げてこの分野の活性化に尽力されました.この流れは,やがて本会の「光通信インフラの飛躍的な高度化に関する特別研究専門委員会(EXAT)」に引き継がれ,これまで多数の国際会議を主催するなど,現在我が国が世界のトップを走る研究開発分野にまでけん引されてきました.
学会活動としては,本会では複数の研究専門委員会,例えば「マイクロ波・ミリ波フォトニクス研(MWP)」,「EXAT研」の委員長を務められ,新たな研究分野の発展に寄与するとともに,2019年には本会の副会長に就任され,その運営,活性化に大きく貢献されました.また,IEEE東京支部理事/セクレタリなどの要職も歴任され,国際的な学会活動にも貢献されてきました.
同君は上記の業績に対して,科学技術庁長官賞,IEE Electronics Letter Premium Award,本会業績賞,櫻井健二郎氏記念賞,IPRM Awardなどを受賞されたほか,本会,IEEE,応用物理学会からフェローの称号を授与されております.
以上のように,同君の産官学での幅広い電子情報通信分野の学術研究並びに活性化に尽くした功績,更には本会運営への長年にわたる貢献は誠に顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしいと確信致します.
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