教育優秀賞贈呈

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.105 No.7 (2022/7) 目次へ

前の記事へ次の記事へ


2021年度 第6回 教育優秀賞贈呈(写真:敬称略)

 本会選奨規程第29条(電子工学及び情報通信並びに関連分野における教育実践(学会,教育機関,企業等での教育の実践)において顕著な成果を挙げ,当該分野の教育の発展に寄与した個人)に基づき,下記の3名を選び贈呈した.

電子情報分野における啓発書・教科書の執筆及び人材育成への貢献

受賞者 伊藤智義

 伊藤智義君は,天体力学専用計算機GRAPEやホログラフィー専用計算機HORNの開発で世界的に知られている研究者です.同時に,科学的専門性を背景とした漫画原作者としても知られています.同君はこれらの専用計算機の開発により得た知見に基づき,啓発書や漫画・専門書を通して教育的な社会還元を行っています.

 啓発書としては,「スーパーコンピューターを20万円で創る」,漫画には「BRAINS~コンピュータに賭けた男たち」,「永遠の一手 2030年,コンピューター将棋に挑む」,「栄光なき天才たち」があります.いずれも高い評価を得ており,これらは,同君のストーリーテラーとしての才能を生かした,専門分野への導入教育書として,高く評価できるものです.その教育的な影響力は専門的な教科書をはるかに超えるものです.より専門性の高い教科書・専門書の執筆も行っており「専用計算機によるシミュレーション」,「GPUプログラミング入門」,「ホログラフィ入門 コンピュータを利用した3次元映像・3次元計測」,英文の教科書「Computer Holography」があります.

 同君は,学生の教育でも特筆すべき成果を挙げています.同君のLSI設計に関する優れた教育能力を示すものに,本会が協賛として2003年から実施されているLSI設計に関する国際コンテスト「LSIデザインコンテスト」での学生の活躍があり,これまでに学生を24件の優勝・準優勝に導いています.

 また,同君は専門の研究分野でも優れた研究指導を行っております.同君が指導した25名の学生が博士号を取得しておりアカデミアや企業で活躍しています.学生の研究発表においては140件を超える受賞があります.また,特に顕著なのが,指導学生が日本の博士課程学生で最高峰の顕彰である日本学術振興会育志賞を受賞したことや日本学術振興賞を受賞したことなどです.これらは,対外的にも同君の優れた教育能力を示すものです.

 これらの教育的業績は本表彰にふさわしい成果であり,ここに推薦させて頂きます.

区切


超スマート社会卓越教育プログラムの設計と実施

受賞者 阪口 啓

 阪口啓君は,2006年に東京工業大学大学院理工学研究科において論文博士を取得後,現在,同大学工学院教授だけでなく超スマート社会卓越教育院長を務めています.

 サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合して実現される超スマート社会は,農業・製造・建設・モビリティ・医療など,我々の日常を取り巻くあらゆる分野に革新的進化をもたらすことが期待され,その社会を創造し,その社会をけん引する人材の育成が急務となっています.この革新的分野を学問として体系化し教育を実施するには,従来の縦割りの教育体制では達成が困難です.また,人生100年時代の超高齢化社会を迎える我が国では世代や業種を超えた学びの場が必要となります.

 このような社会的背景を受け同君は,東京工業大学及び関連する企業・国研・自治体などに働きかけ,2018年10月に超スマート社会推進コンソーシアムを設立しました.この産官学連携コンソーシアムは,超スマート社会のための次世代型社会連携教育研究プラットホームとして人材育成から研究開発までを統合して活動しています.コンソーシアムの中核的施策の一つとして,社会連携教育及び異分野融合研究を介して人材育成を行う「超スマート社会卓越教育プログラム」を設計し,文部科学省の卓越大学院プログラムに採択されました.

 2020年4月に東京工業大学で博士学位プログラム「超スマート社会卓越教育課程」が設置され,同君が初代教育院長を務めています.この教育課程では,①量子科学と人工知能の基幹的学力を有し,②サイバー空間・フィジカル空間にまたがる専門分野で独創的な科学技術を創出でき,③量子科学から超スマート社会までの道筋を俯瞰でき,④異分野が融合した社会課題の解決能力を有し,⑤産官学の各セクタをけん引できるリーダーシップ力のある知のプロフェッショナルを養成しています.同君が率いる本取組みは,組織内外及び国内外から高い評価を得ており,本会教育優秀賞にふさわしいと考えます.

区切


スマートエスイー:スマートシステムによる価値創造の人材育成

受賞者 鷲崎弘宜

 鷲崎弘宜君は,2003年に早稲田大学大学院博士後期課程を修了後,国立情報学研究所を経て,2008年に同大学基幹理工学部情報理工学科に採用され,現在同学科教授として活躍されています.

 あらゆる産業においてDXの必要性が叫ばれる中,そのリードに向けて最先端ICTを軸にビジネスまで結び付けて価値創造を扱えるイノベーティブ人材が不足しています.その人材育成の社会要請に応えるべく同君は事業責任者として,文部科学省2017年公募事業「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成enPiT-Pro」に13大学,モバイルコンピューティング推進コンソーシアムを含む21企業・団体(傘下5,000社超)との大規模産学ネットワークによりリカレント教育プログラム「スマートエスイーSmart SE」(代表:早稲田大学)を提案し,採択されました.

 これはIoTセンサ・通信からAI,ビジネス応用までの体系的かつ実践的な履修証明プログラムであり,毎年30名程度の社会人が学んでいます.2018年度修了者のIoTシステム技術検定上級受験者が全員合格し,毎年75~95%の修了者が総合満足と回答しています.修了1年後調査でも80~90%が業務改善や開拓へつながったと回答し,独立・起業事例も得られ,高い育成効果を実証しています.また座学部分をJMOOCとedX上で提供し,約9万名が履修登録しています.これらの成果から文部科学大臣表彰,e-Learning大賞部門賞,IMS Japan賞特別賞,KDDI Foundation Awardなどを受賞しています.

 更に同君は,修了者同士や講師,連携先を含むネットワーク形成と更なる発展に向けてコンソーシアムを設立し,多数のセミナーや産学マッチング,交流,DX戦略の調査研究,石川県やコマツほかと連携した人材育成の地域展開を進めるなど,技術普及啓発とその先の研究を進めています.このように同君は最先端リカレント教育及びその先の調査研究,実践,交流を推進し,功績は極めて顕著であり,本会の教育優秀賞に同君を推薦します.

区切


オープンアクセス以外の記事を読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。