末松安晴賞贈呈

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Vol.105 No.7 (2022/7) 目次へ

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2021年度 第8回 末松安晴賞贈呈(写真:敬称略)

 本会選奨規程第20条(電子情報通信分野において,学術,技術,標準化などにおいて特に顕著な貢献が認められ,今後の進歩・発展が期待される)に基づき,下記の3件を選び贈呈した.

学術界貢献

OSS開発プロジェクトの継続的進化を支えるJust-In-Timeバグ予測モデルの研究開発

受賞者 亀井靖高

 亀井靖高君は,2005年に関西大学総合情報学部総合情報学科を卒業し,2007年に奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士前期課程,2009年に同大学院同研究科博士後期課程を修了した.2008年から2010年には日本学術振興会特別研究員に採用され,2010年から2011年にカナダ・クイーンズ大学の博士研究員を務めた.2011年,九州大学大学院システム情報科学研究院に助教として着任,2015年に同准教授に昇進し,現在に至っている.

 昨今,オープンソースソフトウェア(OSS)を取り巻く環境が劇的に変化している.OSSの存在がエンドユーザにますます身近な存在になり,OSS利用に対するベンダ企業の価値認識も単なるコスト削減から最新技術の導入へと変化している.その一方で,OSSの開発や利用には様々なバグやぜい弱性が伴うことが指摘されている.OSSの継続的進化を支えるためには,信頼性の確保と開発の効率化をするための,バグやぜい弱性の原因となるソースコードへのバグ混入を自動的に発見してOSS開発者に通知する枠組みが求められている.

 同君は,大規模なソフトウェア開発データを解析することでソフトウェア品質の実証的な改善やモデル化などにつなげるソフトウェアリポジトリマイニングの分野で優れた研究を行っている.同君の特筆すべき研究成果の一つが,OSS開発の開発状況をリアルタイムに分析して,その品質を自動推定するJust-In-Timeバグ予測モデルの開発である.細粒度(コード変更単位),かつ,リアルタイム予測の実現には,限られた情報での予測モデルの構築など解決すべき技術的課題が多いとされてきた.同君は,複数の開発リポジトリの連携,類似プロジェクトの発見とコンテキストの活用といった,広範なソフトウェア開発で適用可能な技術でそれら課題を解決し,Just-In-Timeバグ検出を実現している.

 以上のとおり,同君の電子情報通信分野における貢献は顕著であり,本賞を受賞するにふさわしいと考える.同君の研究の更なる進展と今後の活躍に期待する.

区切


学術界貢献

無線通信と機械学習の融合領域技術の開拓

受賞者 西尾理志

 西尾理志君は,2010年に京都大学工学部,2012年に同大学院情報学研究科修士課程,2013年に同博士課程を修了した.その後,2013年4月に同大学院情報学研究科の助教に着任し,2020年9月まで務めた.その間に2016年から2017年まで米国ラトガース大学WINLABの客員研究員となり,2020年10月から東京工業大学工学院情報通信系の准教授として着任し,現在に至っている.

 同君は学術的及び産業的にも重要な技術である機械学習に関して,無線通信分野において先駆的に取り組み,無線通信への応用,及び無線ネットワーク上での機械学習について優れた成果を上げている.特に近年国内外の学術及び産業界から注目を集める分散機械学習(Federated Learningなど)について,端末ごとの通信性能・計算性能・データ品質の違いに起因する学習のボトルネックを指摘し,学習の時間的効率を改善する端末選択手法を提案している.また,従来とは異なる学習方法により,学習時の通信トラヒックを100分の1以下に低減可能な方式も確立した.これらの研究成果は発表から2年半で合計600件以上引用されるなど,世界的にも注目されている.機械学習応用においても,強化学習に基づく無線ネットワーク制御のほか,コンピュータビジョン技術の導入により,画像から得られる空間情報を基に,無線通信品質を正確に予測する技術を世界で初めて実証している.また,Beyond 5Gに向けた無線通信,機械学習,コンピュータビジョンの融合領域研究に関してコンセプト論文を執筆するなど,新たな研究領域の開拓にも貢献している.加えて,同君は本会研究会及び国際会議において機械学習応用及び分散機械学習に関して多数の招待講演・チュートリアル講演を行うほか,本会誌の解説記事を執筆し,国内における技術普及活動にも尽力している.

 このように同君の電子情報通信分野における貢献は顕著であり,今後一層の活躍が期待されることから,本賞を受賞するにふさわしいと判断する.

区切


産業界貢献

第4世代及び第5世代移動通信システムの交換インタフェースの標準化

受賞者 阿部元洋

 阿部元洋君は,第3世代以降の移動通信システムの国際標準仕様策定を担う3GPP(3rd Generation Partnership Project)において,第4世代(LTE: Long-Term Evolution及びLTE-Advanced)及び第5世代(5G,NR: New Radio)の移動通信システムの交換インタフェースの標準仕様策定に従事し,社会基盤として必要不可欠なものとなった4G移動通信システム及び5G移動通信システムの発展・実用化に大きく貢献してきた.

 同君は3GPPの標準仕様策定のため数多くの技術提案を行うとともに,発明者として複数の標準必須特許を取得している.3GPPの作業部会では,世界各国の通信事業者やグローバルベンダの参加者を代表した取りまとめ役としてセッションチェアやラポータとして尽力し,リーダシップを発揮し完成度の高い仕様を早期に策定することに貢献した.VoLTE(Voice over LTE)ローミングのS8HR(S8 Home Routed)方式では,3GPPでの議論をラポータとしてけん引,15社以上のサポートを得てRelease 13での仕様制定に大きく貢献し,その功績を認められ第46回日本ITU協会賞(奨励賞)を受賞した.また,本技術をベースとして,NTTドコモは双方向での国際ローミング形態としては世界で初めてVoLTE国際ローミングサービスを韓国KT社との間で実現した.本方式は日本・韓国・北米を皮切りに,中南米,アジア各国,ヨーロッパへと普及しており,デファクト方式として世界各国に採用され,現在国際ローミングにて実用化されている唯一の方式として順調に拡大している.また,各国通信事業者による国際ローミングにおけるVoLTE採用の障壁を下げたことで,世界的な3Gから4Gへの移行を促進することに貢献した.これにより,VoLTEの高音質通話を国際ローミング形態で利用できるなど,これまで海外では利用できなかったサービスが利用できるようになり利便性の向上につながった.

 以上,同君が担ってきた一連の標準化活動は,4G及び5G移動通信システムの発展・実用化に欠かせないものであり,産業界への貢献は極めて大きいと言える.今後の更なる活躍に期待する.

区切


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