特集 2-2 大会用データネットワークのアーキテクチャ

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Vol.105 No.8 (2022/8) 目次へ

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2. 通信・無線・放送

特集 2-2

大会用データネットワークのアーキテクチャ

Architecture of Data Network for the Tokyo 2020 Games

黒宮教之

黒宮教之 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会テクノロジーサービス局

KUROMIYA Takayuki, Nonmember, Technology Services Bureau, The Tokyo Organising Committee of the Olympic and Paralympic Games.

電子情報通信学会誌 Vol.105 No.8別冊 pp.816-824 2022年8月

©電子情報通信学会2022

abstract

 オリンピック・パラリンピック競技大会において,関係者向けに信頼性の高いデータネットワークを整備することは,安全・安心な大会運営を実現するために必須である.東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では過去大会における構成を見直し,ユーザや用途によって異なる三つの論理ネットワークを構築した.本稿では大会特有のサービス特性を踏まえた,大会用データネットワークの効率性,信頼性,柔軟性,拡張性を確保するための考え方とその実装方式について総括する.そして東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会ならではのアーキテクチャのポイントについて考察する.

キーワード:データセンタ,WAN,LAN,セキュリティ,リモートアクセスVPN,Wi-Fi

1.は じ め に

 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,東京2020大会)の運営基盤となるデータネットワークを組織委員会が整備するにあたり,競技運営を妨げることのない堅ろうで安定したサービスを提供するだけでなく,本番直前まで不確定要素の多い大会計画やステークホルダの利用要件に追従することが求められた.その実現に向け,構築・運用コストが適切であること(効率性),可用性やセキュリティが確保されること(信頼性),柔軟に変更可能なこと(柔軟性・拡張性)を基本方針とし,大会の通信サービスパートナーであるNTTグループの協力を得て設計,構築した.

 まず効率性の観点から,大会運営に関わる様々なシステム・サービスごとに個別の独立したネットワークを用意するのではなく,信頼性の高い一つの大規模ネットワークに重畳する構成とした.そして,これを利用する多数の関係者の要件が,大会直前まで追加・変更されるであろうことを想定し,それらの要件変更を吸収できる柔軟性・拡張性に留意した.

 一方,大規模であるため,その検証・構築のリードタイムを考慮すると,大会の2年以上前に基本設計を終える必要があった.実際には2018年4月に大会用データネットワークの基本設計を完了したが,その時点では要件はそろっておらず,過去大会の情報を参考に想定値を算出した.

 本稿では,これらの背景を踏まえて構築した大会用データネットワークのアーキテクチャについて物理・論理の両面から紹介する.

2.物理ネットワーク

2.1 基盤の全体構成

 運用性の向上やセキュリティポリシーの共通化といった効率性の観点から,インターネット接続をはじめとする外部通信は原則データセンタ(DC)を経由することとした.その結果,サーバシステムをDCに集約し,これをハブとして各会場を接続するスター方式の構成となった.

 そして大会用データネットワーク全体の信頼性を確保するために,DC自体も拠点冗長化し,東京都にプライマリデータセンタ(PDC),埼玉県にセカンダリデータセンタ(SDC)をそれぞれ設置した.

 また基幹部分の回線帯域は100Gbit/sとして十分なキャパシティを備えるとともに,インターネット回線は増速可能な20Gbit/sのサービスを選択し,様々なユーザ要件を吸収できるだけの柔軟性・拡張性を持たせた(図1).


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