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2. 通信・無線・放送
大会用データネットワークのアーキテクチャ
Architecture of Data Network for the Tokyo 2020 Games
オリンピック・パラリンピック競技大会において,関係者向けに信頼性の高いデータネットワークを整備することは,安全・安心な大会運営を実現するために必須である.東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では過去大会における構成を見直し,ユーザや用途によって異なる三つの論理ネットワークを構築した.本稿では大会特有のサービス特性を踏まえた,大会用データネットワークの効率性,信頼性,柔軟性,拡張性を確保するための考え方とその実装方式について総括する.そして東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会ならではのアーキテクチャのポイントについて考察する.
キーワード:データセンタ,WAN,LAN,セキュリティ,リモートアクセスVPN,Wi-Fi
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,東京2020大会)の運営基盤となるデータネットワークを組織委員会が整備するにあたり,競技運営を妨げることのない堅ろうで安定したサービスを提供するだけでなく,本番直前まで不確定要素の多い大会計画やステークホルダの利用要件に追従することが求められた.その実現に向け,構築・運用コストが適切であること(効率性),可用性やセキュリティが確保されること(信頼性),柔軟に変更可能なこと(柔軟性・拡張性)を基本方針とし,大会の通信サービスパートナーであるNTTグループの協力を得て設計,構築した.
まず効率性の観点から,大会運営に関わる様々なシステム・サービスごとに個別の独立したネットワークを用意するのではなく,信頼性の高い一つの大規模ネットワークに重畳する構成とした.そして,これを利用する多数の関係者の要件が,大会直前まで追加・変更されるであろうことを想定し,それらの要件変更を吸収できる柔軟性・拡張性に留意した.
一方,大規模であるため,その検証・構築のリードタイムを考慮すると,大会の2年以上前に基本設計を終える必要があった.実際には2018年4月に大会用データネットワークの基本設計を完了したが,その時点では要件はそろっておらず,過去大会の情報を参考に想定値を算出した.
本稿では,これらの背景を踏まえて構築した大会用データネットワークのアーキテクチャについて物理・論理の両面から紹介する.
運用性の向上やセキュリティポリシーの共通化といった効率性の観点から,インターネット接続をはじめとする外部通信は原則データセンタ(DC)を経由することとした.その結果,サーバシステムをDCに集約し,これをハブとして各会場を接続するスター方式の構成となった.
そして大会用データネットワーク全体の信頼性を確保するために,DC自体も拠点冗長化し,東京都にプライマリデータセンタ(PDC),埼玉県にセカンダリデータセンタ(SDC)をそれぞれ設置した.
また基幹部分の回線帯域は100Gbit/sとして十分なキャパシティを備えるとともに,インターネット回線は増速可能な20Gbit/sのサービスを選択し,様々なユーザ要件を吸収できるだけの柔軟性・拡張性を持たせた(図1).
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