巻頭言 この一年で気付いたこと

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Vol.105 No.8 (2022/8) 目次へ

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巻頭言

基礎・境界ソサイエティ会長 鎌部 浩この一年で気付いたこと Things I Have Learned over the Past Year

 本会の理事会に参加するようになって気付いたことがたくさんありますが,ここではそのうちの二つについて述べたいと思います.

 理事会では,若手の会員から出されていた提言が真剣に議論されていました.それを聞きながら,以前から何となく気付いていた「私より若い世代の研究者の多くが非常に有能であり,かつ優秀だ」ということを明確に意識するようになりました.

 以下はその例です.

 2年前にISITA2020という国際会議が開催されましたが,その投稿締切は,2020年3月11日にWHOがパンデミックの宣言をした1か月後というタイミングでした.御存じのとおり2020年中は感染は拡大する一方でしたので,この会議の形態は完全にバーチャルなものにすることが7月に決定されました.

 国際会議の開催が近付いてくると,多くの作業で忙殺されますが,今回の会議ではビデオの見せ方を工夫し,また会場のフロアでの会話などを擬似体験できる仕組みを導入するなど,私の想定をはるかに超える様々な工夫を導入するために,更に作業が増えていました.こうした工夫に対して感謝する以上に,このような工夫を短期間(バーチャル会議の決定から僅か数か月)のうちに計画して実行し,成功させることができるということに大変驚きました.

 TPC Meetingは,zoom, slack, dropbox, WhatApp(海外の参加者)などのツールを活用して,海外からの参加者を含めて開催することになり,8時間かかりました.私はこの国際会議のTPC Chairの一人でしたが,このMeetingの参加者は私よりも若い方ばかりで,私を除く全員がこれらのツールを使いこなしているようでした.所属する組織が違い,専門分野も違い,海外から参加者もいるMeetingを,多少議論が紛糾したものの,当初は予定していなかった英語の遠隔会議という形式でもうまく運営できるという,その適応能力に感嘆しました.

 学会では若手会員を対象として新規の企画を立ち上げていますが,若手会員の意見をよく聞いてこれらに貢献できればと考えています.

 二点目は海外の会員についてです.私の修士の講義をミャンマーの学生が遠隔で受講しています.この学生は国内事情とパンデミックのために入学を1年延期していましたが,2年は待てないということで今年4月に入学して,現在は遠隔で教育を受けています.しかし先日,「自分が住んでいる都市はインターネットが規制される(回線が遅くなっている)ようになったので,動画像ファイルのような大きなファイルは転送できない.規制されていない別の都市へ行ってそこから課題の動画像ファイルを送信するので,締切を延ばしてほしい」と連絡がありました.移動の安全が気になりますが,その意欲には感心しました.最近ある本で「生きる理由がある者には,どんな生き方にも耐えられる」(ニーチェ)という一節を読んだとき,この学生を思い出しました.

 この学生で更に思い出したのが,私が学生のときに研究室にいた中国人留学生の王さんです.王さんは若い頃は大学の教員でしたが,長く農村で働いたあと大学に戻り,最新の技術を学ぶために日本に来ていました.年齢がかなり上であったことと,長いブランクのためにかなり苦労されていたようですが,その大変さが今になってようやく理解できるようなったと思います.

 学会の海外展開を進めるために,ホームページなどの資料を英語以外の言語に翻訳するプロジェクトが始まりますが,インターネットの先にはこのような学生がいることを心にとどめて,こうしたプロジェクトに関わっていきたいと考えています.


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