巻頭言 学会という集合,要素としての会員

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Vol.105 No.9 (2022/9) 目次へ

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巻頭言

学会という集合,要素としての会員 Academic Society As a Set, Membership As an Element編集理事 髙村誠之

編集理事  髙村誠之

 学会と会員の関係は,集合と要素の関係として考えれば,生物と細胞や,企業と社員,国と国民,学校と先生・生徒等の関係に似ています.生物であれば,生物と細胞は互恵関係にあり,ある生物種と似た近縁種が存在したり,ある生物種は繁栄し別の種は衰退あるいは絶滅したり,変異や交雑により新種(亜種)が生まれることもあります.他の集合(上述のものもそれ以外も)においても,これらの性質はおおまかには共通しています.

 しかしながら学会という集合においては,会員が(希望するしないは別として)複数の学会にほぼ無制約で所属し得る点で,他の集合とは異なります.つまり,複数の生物にまたがって所属する細胞などなく,副業可であっても数個以上の企業に所属する人は少数ですし,多重国籍者もまれです.翻ってファンクラブやポイントカード,ネットゲーム,動画像配信,SNSその他の市中サービスは,その会員が複数の集合に(同族であっても)所属し得る点で,学会と会員の関係に似ています.会員とは複数の集合に所属できる要素のことである,とも言えそうです.

 筆者は本会を含め6学会に所属しています.複数の学会に所属することの良い面は,学会ごとの様々な特色(個性)に基づき,活動の幅を広げることができる点です.悪い面は,会費がかさむことや,個人の稼働は有限なため,複数学会に所属するとその活動歩合を分けざるを得ないという点です.西原明法前監事も,本会事業への会員参加率の減少を会誌2022年5月号巻頭言で指摘されています.

 さて市中サービスを思い浮かべますと,支払う額(無料も含む)と対価の組合せ(プラン)が多種多様であることに気が付きます(基本・標準・プレミアム等の会員グレードやサービス種別,オプション料金や割引サービスなど).ゲームでは課金すればアイテムがもらえたり,動画像配信では課金すれば広告が出なくなったりします.いずれも競合との差異化とサービスの最大化,多様化を図っているように,学会サービスも他学会との差異化とサービスの最大化,多様化を図っていくべきということになります.

 学会においては,(例えば寄付をすれば寄付者名付き基金や賞が創設されることがありますが),更には会費を多めに払えば査読業務免除権やボランティア業務免除権が付与されるということも考えられるでしょう.逆に学会活動参加が期待される低会費プランもあり得るかと思います.更には,市中サービスの多くが「○○ポイント」「○○マイル」のようなポイント付与をしているように,(学会でも例えば会員歴や活動歴に応じ終身会員や名誉員等の称号を与えていますが),より直接的に会員歴や活動歴に応じポイントを付与し会費支払いに充当頂く,といったことが考えられます.会員が積極的に学会活動に参加頂けるようになる可能性も出ますし,極端な場合,ポイント還元で会費が無料になるくらいの「スーパースター会員」の出現で学会運営が大きく変わるかもしれません.

 低会費プランの提供等による一時的収入減といった近視眼的評価や法人としての制約に起因した思考停止をせず,他学会と共存する前提で,市中サービスに倣った大局的な判断の下,柔軟で適切なサービスプランを設計することが,学会という集合において重要になっていくのではないでしょうか.


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