解説 視覚暗号の最近の進歩

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 解説 

視覚暗号の最近の進歩

Recent Progress in Visual Cryptography

古賀弘樹

古賀弘樹 正員:シニア会員 筑波大学システム情報系

Hiroki KOGA, Senior Member (Institute of Systems and Information Engineering, University of Tsukuba, Tsukuba-shi, 305-8573 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.1 pp.39-46 2023年1月

©電子情報通信学会2023

A bstract

 視覚暗号はディジタル画像に対する秘密分散法の一種である.視覚暗号では,1枚の秘密画像からシェアと呼ばれるmath枚の画像が生成され,math人の参加者にそれぞれ配布される.視覚暗号の最大の特徴は,シェアを透明なシートに印刷して重ね合わせることによって,秘密画像が復元されるという点にある.本稿では,math枚のシェアの生成に用いる基本行列の最適化について解説する.実際,基本行列の最適化の問題は整数計画問題または線形計画問題として定式化でき,最適な基本行列はmathが10程度以下なら最適化ソルバを用いて簡単に構成することが可能である.

キーワード:視覚暗号,秘密分散法,視覚復号型秘密分散法,画素拡大,相対差

1.ま え が き

 視覚暗号(1)は1994年にNaorとShamirにより提案された,ディジタル画像に対する秘密分散法の一種である.視覚暗号では,ディーラが1枚の白黒2値の秘密画像からmath枚のシェアを生成し,透明なシートに印刷してmath人の参加者に秘密裏に1枚ずつ配布する.アクセス構造がmathしきい値型であれば,秘密画像は任意のmath枚のシェアの重ね合わせによって復元される.一方,どんなmath枚以下のシェアを解析しても,秘密画像に関する情報は一切漏れない.秘密画像の復元に計算機を必要としない点が,通常の秘密分散法が持たない視覚暗号の最大の特徴である.(2,4)しきい値型のアクセス構造に対する視覚暗号を図1に示す.

図1 (2,4)しきい値型の視覚暗号  1枚の秘密画像からシェアと呼ばれる4枚の画像が生成される.任意の2枚のシェアを重ね合わせると秘密画像が復元されるが,どの1枚のシェアからも秘密画像の情報は一切漏れない.

 視覚暗号は,提案から30年近く経過した.この間,視覚暗号は,理論,機能の拡張,応用など様々な視点から研究されてきた.特に視覚暗号では,シェアの重ね合わせによって復元される秘密画像の視認性の向上は避けて通れない課題であるため,シェアの生成に用いる基本行列の最適化について活発な研究が行われてきた.基本行列の最適化には,シェア画像のサイズをできるだけ小さくする画素拡大の最小化と,復元された秘密画像の白画素と黒画素の輝度差(相対差)の最大化という,二つのアプローチがある.本稿では,最近の10数年で発展した基本行列の最適化について解説する.


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