巻頭言 論文の多言語化サービス

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Vol.106 No.1 (2023/1) 目次へ

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巻頭言

会長 川添雄彦論文の多言語化サービス Multi-language Service for Paper Submission

 皆様,新年あけましておめでとうございます.一年の計を立てるにあたって昨年を振り返りますと,世界を震撼させる大きな出来事がございました.御存じのとおりロシアによるウクライナ侵攻が勃発し,今も戦地では人民の尊い命が危険にさらされています.更にエネルギーや食糧の高騰が私たちの仕事と家計を圧迫しております.新型コロナウイルス感染症につきましても大混乱から早三年,ワクチンによって全てが解決されたわけではなく,ソーシャルディスタンスの制約から解き放たれるには今しばらく時間を要するでしょう.

 このように世界が分断された状況におきまして,アカデミックな本会の存在意義がますます問われていると感じております.昨年,諸々の社会課題の解決を目指して新たなイノベーションを興すために,私は学会というピュアな立ち位置で三つの運営方針を掲げました.一つ目は「産学官の連携強化」であり,企業から見た学会の魅力と貢献の検証です.二つ目は「学会のグローバル価値の向上」であり,言語の壁を乗り越える技術革新の構築です.三つ目は「新たな会員の形の模索」であり,学術貢献に限らず本会に貢献してくれる会員の促進です.

 そして迎えた2023年は,これらの方針を着実に具現化していくことが目標になりますけれど,今回改めて申し上げたいのは「学会のグローバル価値の向上」に密接した多言語化の営みです.さて,皆様に一つ問い掛けがございます.論文をはじめとする学会コンテンツは英語で書くのが当たり前だとお考えでしょうか? 実を申しますと,私自身も「世界中の方々に読んで頂くには英語が必須」だとかたくなに考えていた一人でした.しかし本会の熱心な議論から柔軟なアイデアが生まれ,英語一択を強いる現在の風潮に対して,誰もが母国語を選択可能にするという目から鱗のダイバーシティ構想に至ったのです.各国の言葉で執筆されたコンテンツについて,それを学会側で多言語翻訳するサービスを提供しますと,本会のグローバル化における強力な差異化要因となるでしょう.

 英語至上主義からの脱却を考えるきっかけになったのはAIの台頭でした.御存じの企業イニシアティブ委員会では「AIが相互運用される社会システム検討」という分科会が提案されております.すなわちAIと連携して社会を最適に動かそうとすれば,AIが人間の英知である論文を読む時代が来ると思うからです.今まで人間同士でやりとりしていた論文にAIがプレーヤとして入ってまいりますと,彼らは人工言語で思考しておりますので,私たち人間も論文作成にあたっては,一つの自然言語である英語だけにこだわるべきではないかもしれません.

 これは私の持論になりますけれど,仮にシンギュラリティが来たとしても,最後に結論を出すのは人間だと思っています.何かの価値を評価したり,あるいは幸せについて考えたり伝達する最後の手段こそ我々の話し言葉にほかなりません.論文とはそこに至るまでのプロセスですから,AIと相互運用しやすい効率的かつ拡張性のある形にしたいのです.そして何より,アカデミックにおける言葉の壁を取り払えば,海外のアクセス増加はもとより会員の増加といったメリットも期待できます.

 昨今の混沌とした社会情勢の中におきまして,本会は皆様のアイデアにより新たな方向へ動き出しております.私はウインドサーフィンをたしなみますけれども,皆様が起こして下さった風が本会を明るい未来へと押しているように感じています.どうか引き続き本会発展のために一層のお力添えを賜りたく,改めてお願い申し上げる次第です.2023年が皆様にとってすばらしい一年となりますことを心から祈念して,末筆とさせて頂きます.


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