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そのとき研究の歴史が動いた――画像認識の発展の歴史を振り返って――
小特集 6.
ARツールキットのそのとき
The “Moment” of the ARToolKit
Abstract
ARToolKitは,撮影された画像に写っている正方形マーカを検出し,カメラに対するマーカの三次元的な位置姿勢を計算する機能を中心としたソフトウェアライブラリである.実世界の中に仮想物体を重畳表示する拡張現実感システムの構築を容易にすることを目的に2000年頃に開発された.当時,それまで高価なワークステーションでしかできなかったリアルタイム画像処理がパソコンでも可能となり始め,拡張現実感技術に興味を持つ多くの研究者に利用されるようになった.本稿では,なぜARToolKitが広く利用されたのかを振り返って考察する.
キーワード:拡張現実感,画像計測,マーカ追跡,ソフトウェアライブラリ
ARToolKitは,実世界の中に仮想物体を重畳表示する拡張現実感システムの構築を容易にすることを目的に開発されたソフトウェアライブラリである(1).仮想物体が現実世界の中に存在するかのようにユーザに見せるためには,ユーザの視点位置に合わせて三次元グラフィックス描画の視点設定を行わなければならない.そのためには,仮想物体を表示するために現実空間の中で定義された三次元座標系から,ヘッドマウントディスプレイやハンドヘルド端末などの拡張現実感表示デバイス上に定義された三次元座標系までの座標変換パラメータを持続的に求める必要がある.これは,機能としては,GPSと電子コンパス,各種モーションキャプチャシステムなどでも実現できるし,最近では,SLAMを用いた技術が標準的に利用されている.ARToolKitでは,画像計測によって正方形マーカを検出し,そのマーカ上に定義された三次元座標系から,カメラ座標系までの座標変換パラメータをリアルタイムに計算する(図1).それにより,正方形マーカを基準とした所望の場所に所望の姿勢で三次元仮想物体を表示できる.特別なデバイスを必要とせず,手軽に拡張現実感システムを開発できることが特徴であった.
ライブラリには,画像計測部に加え,画像入力部やグラフィックス表示部も含まれており,サンプルプログラムも提供されていたので,三次元CGのプログラミングスキルさえあれば容易に利用することができた.
筆者は卒業研究でピアノ楽譜の自動認識システムの開発に取り組んで以来,パターン認識,画像計測技術に関する研究に従事してきた.問題を解くことより動くものを作ることに興味があり,自分の研究の枠を超えて研究室で使用するツールの整備などソフトウェア開発を行っていた記憶がある.
1998年に文部省在外研究員制度により米国ワシントン大学ヒューマンインタフェース技術研究所で研究する機会を頂いた.何かを学びに行くという姿勢ではなく,そこで自分がどんな貢献ができるかを考えて活動しなさいと,学生時代からの指導教官である井口征士氏より助言があった.その研究所は多くの企業と連携していた関係で年2回のデモイベントを開催していて,筆者も着任直後であったが人物追跡技術を用いた簡単なデモを行った.それを見た当時まだ学生であったMark Billinghurst氏から彼の研究を手伝ってほしいとお願いされ,それを引き受けることにした.
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