小特集 5. グラフカットのそのとき

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Vol.106 No.12 (2023/12) 目次へ

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そのとき研究の歴史が動いた――画像認識の発展の歴史を振り返って――

小特集 5.

グラフカットのそのとき

The “Moment” of the Rise of Graph Cuts

石川 博

石川 博 正員 早稲田大学基幹理工学部情報理工学科

Hiroshi ISHIKAWA, Member (School of Fundamental Science and Engineering, Waseda University, Tokyo, 169-8555 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.12 pp.1091-1095 2023年12月

©電子情報通信学会2023


本会誌では,用語は①文部省(文部科学省)学術用語集電気工学編,②本会編の改訂電子情報通信用語辞典,③本会編のエンサイクロペディアハンドブック,に基づき統一している.本稿中の「ノイズ」は,上記①に従うと「雑音」であるが,本稿では著者の希望により「ノイズ」と記述する.

Abstract

 グラフカットとは,ノイズ除去,ステレオ,領域分割,動画像解析などのコンピュータビジョンや画像処理タスクで,画素のようなものに値を割り当てる「マップ」を滑らかにするために盛んに使用されてきた,離散最適化アルゴリズムである.筆者は自分の研究の最初からグラフカット研究の勃興期に加わることができ,その後もその発展に関わってきた.ここでは,グラフカットの誕生から現在に至る歴史を,必要最低限の技術的解説と個人的な回想を交えて紹介する.

キーワード:エネルギー最小化,最小切断,高階エネルギー,小史

1.は じ め に

 グラフカットとは,1990年代末に現れ,2000年代を通してビジョンや画像処理で盛んに使用され,現在でも定着しているアルゴリズムである.重み付グラフの最小切断アルゴリズムを応用しているのでその名称がある.筆者は自分の研究の最初期にそれにめぐり合い,その発展に関わってきた.ここでは,グラフカットの誕生から現在に至る歴史を,必要最低限の技術的解説と個人的な回想を交えて紹介する.

2.そ の と き

 ビジョンにおいて後にグラフカットと呼ばれるようになるアルゴリズムが三つ,1998年に現れた(1)(3).筆者は文献(2)の筆頭著者であったが,前年に論文を書いた当時は博士課程2年目で,修士までと分野を変えたためビジョンの研究は始めたばかりであった.指導教授にアイデアをもらって研究をしたので,グラフカットは筆者のアイデアではないとは間違いなく言えるが,では誰のアイデアだったのかということは,よく分からない.これら3論文の最終著者である3人の先生方は同世代で互いに知り合いだったので,何らかの機会にアイデアを分け合ったものかもしれない.後述するように,当時は先生方も学生たちも知らなかったものの,最小切断アルゴリズムを最適化に使うこと自体は新しいアイデアではなかったし,それぞれの論文のアプローチはかなり違うものであった.

 ドイツのフライブルクで文献(2)を発表した筆者は,たまたま文献(3)の第一第二著者の二人(ユーリとオルガ)とホテルが同じで,朝食室で話したと思うのだが,何がきっかけで話したのか覚えていない.そのときには文献(3)のアクセプトも決まっていただろうから,同じようなことを発表していた筆者に向こうから話しかけてきたものかもしれない.

 これら三つの国際会議論文でグラフカットが流行し出したかというと,そうではなく,それは数年後の文献(4)によるところが大きい.これは文献(3)と同じ著者らによる,文献(3)を膨らましたもので,その膨らました部分であるmath拡張(後述)で彼らは一躍有名になったと言えよう.このように彼らはその間数年にわたって同様の研究を進めていたのだが,筆者は文献(3)と同じ1か月後のCVPRで,もう一つグラフカットの論文(5)を出した後は別のことをしていて,グラフカットは博士論文の一部とはなったが,新しい研究は余りしていなかった.博士論文に書いた内容の一部は論文にしていなかったが,上記の二人に引用しにくいから論文にしろとせかされて,遅ればせながら文献(6)として発表した.


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