解説 ダイナミックプロジェクションマッピングの作り方と使い方

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 解説 

ダイナミックプロジェクションマッピングの作り方と使い方

How to Develop and How to Use Dynamic Projection Mapping

渡辺義浩

渡辺義浩 東京工業大学工学院情報通信系

Yoshihiro WATANABE, Nonmember (School of Engineering, Tokyo Institute of Technology, Yokohama-shi, 226-8502 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.2 pp.149-154 2023年2月

©電子情報通信学会2023

A bstract

 実体への映像投影によって,虚構の外観を目の前に創出する.この虚実融合の構想を動的に変化する環境下でも成立させようとするのが,ダイナミックプロジェクションマッピングである.実現には,センシングからプロジェクションまで様々な新しい要素技術が不可欠である.また,この新技術はどの分野で何を生み出すのか,考える余地が多く残されている.このようなダイナミックプロジェクションマッピングの今について,その作り方と使い方を軸に解説する.

キーワード:プロジェクションマッピング,高速プロジェクタ,高速ビジョン,拡張現実

1.は じ め に

 目の前に赤い板がある.果たしてこれは,赤い板に,白い照明が当たったのか.それとも,白い板に,赤い照明が当たったのか.

 我々の目が,反射光を介して世界を捉える以上,この区別が難しい場合がある.これは,反射光から生成過程を遡り,どのような物理特性の実体が,どのような照明条件下で存在するかを,正確に脳内に復元することは簡単ではないためである.我々の目が捉える現実は主観的で,簡単に操作できる.

 このような現実の隙間に介入しようとするのが,プロジェクションマッピングである.プロジェクションマッピングは,実空間への映像投影によって,虚構の外観で塗り替えた視覚世界を創出する.デバイスを装着することなく,虚実融合の世界へシームレスに移動できるとともに,大勢の人が同じ体験を同時に共有できる.このような利点の下,舞台やコンサートの演出,アミューズメント施設のアトラクション,ディジタルサイネージ,ファッション,デザイン,作業支援などへと応用展開を次々に広げている.

 一方,プロジェクションマッピングの最終構想に到達するには,数多くの技術的チャレンジが残されている.その一つが,動的に変化する環境下でのマッピングである.より日常に近いニーズで,プロジェクションマッピングを社会実装するとき,この要請は避けられない.従来と区別するために,このようなマッピングはダイナミックプロジェクションマッピングと呼ばれている.

 ダイナミックプロジェクションマッピングの実現に向けて特に重要な点は,運動する実体と投影像の間にずれがないことである.知覚上でずれのないマッピングを実現するためには,対象が動いてから投影完了までを僅か数ms以内に抑える必要がある(1).この時間内に,カメラでの撮像,画像処理による対象認識,その状態に応じた映像生成,プロジェクタへの映像転送,プロジェクタの映像投影など,複数の工程の全てを完了する必要がある.

 本稿では,このような背景の下で進化するダイナミックプロジェクションマッピングは,一体どのように作るのか,更に何に使えるのかを軸に解説する.

2.ダイナミックプロジェクションマッピングの作り方

2.1 高速プロジェクタ

 既存のプロジェクタでは,ダイナミックプロジェクションマッピングの速度要請を満たすことが困難である.これを打破するために,秒間1,000回の投影が可能な高速プロジェクタ“DynaFlash”が新たに実現された.DynaFlashは,DMD(Digital Mirror Device)と呼ばれるミラーアレーを用いたDLP(Digital Light Processing)方式の投影に基づくものである.通常のDLP方式では,DMDの駆動制御のみによって映像を更新する.DynaFlashはその更新速度の限界を超えるために,このDMDの制御に加え,DMDに照射する光源の明滅制御を両者の限界性能で連携させることで高速化を実現している.更に,独自の通信インタフェースによって,画像転送も高速化している.


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