解説 「ハードウェアのシリコンバレー」深センに滞在して見聞きしたこと,経験したこと

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 解説 

「ハードウェアのシリコンバレー」深センに滞在して見聞きしたこと,経験したこと

What I Have Seen and Experienced in “Hardware Silicon Valley”, Shenzhen

秋田純一

秋田純一 正員 金沢大学理工研究域電子情報通信学系

Junichi AKITA, Member (Collage of Science and Engineering, Kanazawa University, Kanazawa-shi, 920-1192 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.2 pp.155-161 2023年2月

©電子情報通信学会2023

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 筆者は,集積回路の研究を行う一方で,広い意味での「ものづくり」である“Make”の活動も行っている.2022年4月から半年間,サバティカル研修制度を利用して中国・深セン市の南方科技大学に滞在し,そこでの研究に加えて,深センに多数存在するハードウェア関連企業への訪問や協業も行った.本稿では,筆者の滞在経験を通して,「ハードウェアのシリコンバレー」とも呼ばれる深センの産業のエコシステム,大学と企業との関係,集積回路技術とそれらとの関係について得られた知見について多角的にまとめ,我々電子情報通信に関する研究者と産業界が,中国や深センとどのように向き合うべきかについて考察する.

キーワード:深セン,南方科技大学,ファブレス半導体メーカ,Maker,イノベーション

1.は じ め に

 筆者は,半導体集積回路(特にイメージセンサ)に関する研究を行う一方で,近年普及してきた,広い意味での「ものづくり」である“Make”(用語)の活動も,研究として,及び個人的に行っている.筆者は所属する金沢大学のサバティカル研修制度(用語)を用いて2022年4月からの半年間,中国・深セン(注1)市の南方科技大学に客員教員として滞在した.現地では,南方科技大での研究活動に加えて,深センに多数存在するハードウェア関連企業への訪問や協業も行った.これらにより,「ハードウェアのシリコンバレー」とも呼ばれる深センの産業のエコシステム,大学と企業との関係,そして筆者の専門である集積回路とそれらとの関係を垣間見ることができた.本稿では,筆者の滞在経験から得られた知見について多角的にまとめ,我々電子情報通信に関する研究者と産業界が,中国や深センとどのように向き合うべきかについて考察する.

2.筆者の専門と深セン

 筆者の主な研究分野は半導体集積回路,特にイメージセンサであるが,その要素技術のみならず,その応用分野に強い研究の関心を持ってきた.すなわち半導体技術がムーアの法則に沿って高度になるに伴って,それを使えるユーザの幅が狭くなるというジレンマ(1)にどう向き合うか,更には,ムーアの法則の恩恵で用途によっては古い枯れた半導体技術でも十分なアプリケーションを新たに生み出す方策について強い研究的な関心を持っている.これは,近年耳にすることが増えた,科学技術が進化するとともに幅広いユーザが使えるようになることで世界が広がる「技術の民主化」と呼ばれる現象の半導体版ということができる.

 また筆者は少年時代から電子工作に親しんでおり,それは現在も続いている.しかし自分の中で,半導体研究者と電子工作ホビイストは長年交わることはなかった.しかし「技術の民主化」に伴って2010年頃から世界的なムーブメントとなった「Make」(1)の世界に触れることで,この両者がつながった.すなわちホビイストとしてMakeする傍ら,高度化したことで高度な専門知識と多額の費用が必要になってしまった半導体集積回路をMakerの手に取り戻すことで,「ものづくり」を新たなステージへと昇華させることを研究テーマの一つに据えている.なお近年はGoogleもこのような観点での活動を始める(2)など,半導体業界の新たな時代の到来を感じさせる.


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