小特集 3. 電子情報通信技術をめぐる「ジレンマの認識とELSI」を学ぶ

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Vol.106 No.3 (2023/3) 目次へ

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電子情報通信技術のもたらす社会・個人への影響――倫理綱領改定に向けて――

小特集 3.

電子情報通信技術をめぐる「ジレンマの認識とELSI」を学ぶ

Education of Dilemma and Ethical, Legal, and Social Issues on Electronics, Information and Communication Technologies

辰己丈夫

辰己丈夫 正員 放送大学教養学部情報コース

Takeo TATSUMI, Member (Faculty of Liberal Arts, The Open University of Japan, Chiba-shi, 261-8586 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.3 pp.189-193 2023年3月

©電子情報通信学会2023

Abstract

 ELSIとは,“Ethical, Legal, and Social Issues”の頭文字を取った言葉であり,ELSIの課題への対応は,リスクマネジメントと同等である.私たちは,情報通信技術を利用するとき,ジレンマに直面することがある.ELSIを考えることは,ジレンマ状況を発生させないために有用である.また,「最初はジレンマに見えるが,本当はジレンマでない状況の認知問題」や,「瞬間の判断が必要なジレンマへの対応」には,事前の学習が有効である.

キーワード:ジレンマ,リスクマネジメント,教材,情報倫理,ELSI

1.ま え が き

 私たちは,現在,情報技術の急速な発展の中,様々な問題に直面している.例えば,通信の高機能化により,個人のプライバシーが侵害されやすくなったり,人工知能を利用したシステムが普及することで,雇用が喪失する状況など,数え上げればきりがない.だが,このような問題は,実は情報技術の登場のみが引き起こしたことではない.

 人類の歴史をひも解けば,様々なことが解明され,それが技術として実現することによって,人間は,それまで直面したことがなかった新しい問題に対処せざるを得なくなってしまう.そして,その対処方法を確立し,それを多くの人と共有するために教育を行って,人類は進化してきた.

 このように,先達の経験を基にして,いろいろな知識が確立していく.その中には,科学技術に基づく知識もあれば,人間同士が生活する上で必要な知識もある.科学技術に基づく知識は,人間が発見する前から存在はしていたのに対して,人間同士の生活に基づく知識は,我々人間が作り出していく知識であり,したがって,成文化には時間がかかる.その結果として生じてしまうのが,技術を正しく使うことができない人間の状況である.特に,使い方のルールについては,当初は整備されていないことが多い.

 例えば,世界で初めての自動車は,ベルギー人技師,キュニョーによって1769年に発明された砲車である.フランス陸軍のためにルイ15世の陸軍大臣であった宰相ショワズールが制作させた.筆者は2007年に,この砲車が保存されているパリ産業技術博物館を訪問し,学芸員に「この砲車が,どのような交通ルールに従っていたのか」と質問をしたところ,「当時は,砲車についての交通ルールはなかった.なぜなら,数が少なかったからだ.」という回答を得た.


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