巻頭言 つながりつむぐ

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Vol.106 No.3 (2023/3) 目次へ

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巻頭言

つながりつむぐ Collaboration for Co-Creation調査理事 尾上孝雄

 会員の皆様は学会の「価値」をどう捉えておられるでしょうか? アカデミアに身を置く私にとっては,やはり他の機関に所属されている研究者・技術者の方々との「つながり」が非常に大きいと思っています.電子情報通信学会をはじめとする幾つかの学会に所属してはや30余年が経過しました.入会のきっかけは御多分に漏れず,指導教員の先生からの「入っておけ」であったり,研究会や大会,国際会議等での発表機会が近づいてきていたり,といったものでした.以降の学会活動で何が得られたかについて考え直してみると,学会の仲間の皆様方と協力して取り組んできたことが,何よりも大切な財産となっていると感じています.日本の特にアカデミアはいわゆるインブリーディングの傾向がありますが,組織に閉じこもっていても新しいことにはチャレンジできません.学会の中で,組織や分野をまたがって協力して活動することは,普段の研究や業務にとっても必ず有益に働きます.普段かぶっている会社や大学の帽子から,学会という帽子にかぶり直して,他の組織の方々とつながって活動を進めることができるのは,学会の醍醐味ではないでしょうか?

 近年,気候変動や災害,食糧問題,エネルギー問題,パンデミックなど世界には多様な課題が噴出し,我々の「いのち」や「くらし」が危機に直面しています.国連が2015年に持続可能な開発目標SDGsを採択してから8年目となり,目標達成期限の2030年まで後半戦に入りましたが,残念ながら17の目標の中で「達成した」と言えるものはまだありません.むしろ混とんとする世界情勢の中で,状況は悪化しているとも思われます.産業界でのESG活動に限らず,昨今は大学・研究機関でも社会課題に関連した教育・研究活動を重視する傾向があります.このような時代だからこそ,情報通信系の出番と言えるのではないでしょうか? 複雑化する社会課題は,単一の分野の研究開発のみでは解決できないことがほとんどです.複数の分野の研究成果を組み合わせ,個々ではなし得なかった効果を狙っていく必要があります.この組合せには情報通信技術が必要不可欠になりますが,単に「つなぎ役」にとどまることなく,そこには研究開発要素が必ず存在します.例えば,サイバーフィジカルシステムのディジタルツイン技術を適用しようとする場合,単にデータ接続のみを取り扱うのではなく,各パートをどのようにモデル化して収容するのか,どのようなデータ処理を行えば,有意な情報を効率良く引き出せるのか等,情報通信系研究者としても取り組むべき課題は数多くあります.

 また,社会課題は我々にとって身近な存在であるがゆえ,その解決の恩恵をユーザに適切に提供する必要があります.たとえ卓越した技術開発成果が上がったとしても,社会への受容性,ユーザ包摂性が担保されなければ,浸透は進みません.そのような観点からも,普段からシステムとユーザとのやりとりの基盤となっている情報通信技術の担う役割は非常に大きいと思われます.やはり我々の貢献なくしては,真の社会課題の解決にはつながらないと言っても過言ではないでしょう.

 高度経済成長やインターネット社会の浸透をけん引した情報通信技術ですが,今後は未来に向かって社会を切り開く新しい魔法の杖として期待されています.今こそ,様々な方々とつながり,未来を紡ぐために学会を生かして行きましょう.


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