電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
© Copyright IEICE. All rights reserved.
|
電子情報通信技術のもたらす社会・個人への影響
――倫理綱領改定に向けて――
編集チームリーダー 多川孝央 澤畠康仁
2020年前半からの新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は,ネットワークを用いたテレワークや教育機関におけるオンライン授業への急速な移行を促し,社会における情報技術の利用を従来にも増して推し進めました.また,幅広いデータの収集と利用者・利用局面に応じた分析を行うAIやビッグデータの利活用が進められ,広く社会に貢献するようになっています.しかし,情報技術やデータの活用が進む一方で,活用の方法によっては個人や社会に対して不利益や不公正・不公平な状況をもたらすという事例も指摘されています.近年,新しい科学技術を開発し社会に適用する際に生じ得る課題について扱う観点はEthical, Legal, and Social Issues(倫理的,法的,社会的課題),頭文字をとってELSIと総称され,技術の導入や活用に際しこのELSIが重要視されるようになっています.
専門的知識や技術と社会の関係に関する問題は,世の中にとって常に重要なものとして捉えられてきました.専門分野や職能集団などにおける倫理綱領は,そのコミュニティが自らの価値観と社会に対して果たすべき責任について表明するものであると同時に,コミュニティに属する個々人が主体的に判断を下すことを支援するための役割を担っています.電子情報通信学会は,倫理綱領試案策定ワーキンググループ(情報通信倫理研究専門委員会:現技術と社会・倫理研究専門委員会の傘下に設置)を中心に検討を行い,1997年に倫理綱領を制定しました.その後,2011年にこの綱領を改定し,また行動指針を制定しました.そして,更に10年ほどの年月が経過した現在,前述のような社会の変化を踏まえて,電子情報通信学会の倫理綱領と行動指針の改定が検討されています.この検討は,本会技術と社会・倫理研究専門委員会の関係者及び関連分野の識者から成る倫理綱領検討小委員会によって行われています.
本小特集は,この倫理綱領の見直しと,その背景に存在する様々なトピックについて紹介するために企画したものであり,2022年3月の電子情報通信学会総合大会において先述の倫理綱領検討小委員会メンバーを中心として開催した企画セッション「倫理綱領を改訂するべきか」の内容を踏まえ,更に関連する幾つかの話題を加えたものにより構成されています.「倫理綱領はどのようなものであるべきか」という考え方に触れたものから,データサイエンスや機械学習に関連した適正なデータの取扱い,ディジタルコンテンツの著作権保護に関わる技術的対応と倫理との関係,SNSやネット上のCGM(消費者生成メディア)を安全で信頼できるものとして利用するためのプラットホームにおける取組み,人工知能の技術的な仕組みと社会におけるバイアス・差別との関係やそこで生じる倫理的問題など,倫理綱領の改定の検討にあたり念頭に置くことになった近年の様々な話題が,ここでは取り上げられています.
前述のとおり倫理綱領は,個々人が主体的に正しい判断を下すことを支援するものです.本小特集で取り上げた各トピックについて,執筆者と異なる見解を持たれることもあるかもしれません.しかし,異論も含め多様な意見の存在を認めた上で論証に基づき対話することが,まさに倫理的行動の本質であると思います.本小特集が,倫理綱領の改定と,関連の事柄についての本会の会員の皆様の理解の助けになることを期待します.
小特集編集チーム
多川 孝央 澤畠 康仁 荒井伸太郎 八巻 俊輔 相川 直幸 坂本 真仁 竹内 啓悟 田中 剛 橋浦康一郎 原澤 賢充 藤本まなと 真野 健 山添 崇 吉澤 晋 Waidyasooriya Hasitha Muthumala
オープンアクセス以外の記事を読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード