小特集 「今,だからこそ!」電子工作のすすめ――未来の技術者を育てる電子工作ブームを再び―― 小特集編集にあたって

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Vol.106 No.4 (2023/4) 目次へ

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小特集

「今,だからこそ!」電子工作のすすめ

――未来の技術者を育てる電子工作ブームを再び――

小特集編集にあたって

編集チームリーダー 三木哲也

 電子工作は,国内外の放送を受信するBCLやアマチュア無線が普及し始めた1960年代に,受信機や送信機を経済的に自作する必要から生まれたと言える.当時は真空管の時代であり,高電圧を必要とし,部品が大きく,金属加工も不可欠であった.1970年代に入ると,低電圧で安全に扱えるトランジスタの低価格化が進み,電子回路の製作記事などもトランジスタへとシフトして行った.

 1975年に日本のアマチュア無線は30万局を超えてアメリカを抜き世界一となり,学校のクラブ活動においても電子工作が急速に普及した.更に1980年代の終わり頃からはPICマイコンが比較的容易に利用できるようになり,電子工作の対象が大きく拡大した.

 この時期1974年に発明協会が,会長であった故井深大氏の提唱によって「少年少女発明クラブ」と称する小中学生のものづくり教室を開始し,それ以来全国的に多数の子供たちとそれを上回る指導員がものづくりに取り組むこととなった.このような教室において電子工作はうってつけの手段であり,これにより電子工作の低年齢化が進み,併せて親子で電子工作を楽しむ風潮も生み出された.また,子供たちが容易に組み立てられる電子工作キットが商品として出回るきっかけともなった.

 しかしながら,1980年代の後半に「理科嫌い・理科離れ」が広く認識されるようになった.要因について種々の分析が行われたが,「高度な技術が自然物のように享受できる社会となり,技術への関心が減退した結果,科学技術を志向する者が減少している」という説が有力視された.他方,学校での教育上の要因も無視できないこと,小学校教員の理科離れも指摘された.

 この事態への対策として,文部科学省は中高生の科学技術への関心を高める事業として「サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)」,優れた科学教育を行う高校を対象に「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」を2002年に開始し,更に「中高生の科学研究実践活動推進プログラム」,「科学の甲子園」など種々のプログラムが大学などの協力の下に実施されるようになった.前後して,理工系の学協会や企業によって科学技術への関心を高める科学教室やものづくり教室などが数多く開催されるようになった.本会が1996年に開始した「小・中・高校生の科学実験教室」もその一環である.このような取組みにおいても,電子工作が有効な手段として活用されてきた.

 2010年代になると,Arduino,RaspberryPiといった小形・低価格のマイコン基板が普及し,更に2010年代中頃には教育用の簡易なMicro: bitやIchigoJamといった超小形マイコン基板が出現し,プログラミングへの入門とともに,電子工作の多機能化に寄与している.

 近年は,自分で設計したプリント基板を通販で短時間に安価に入手できるようになり,3Dプリンタの普及によって思いどおりの加工物を作れるようになってきた.また,オシロスコープなどの測定器の低廉化が進み,ものづくり環境が大きく進展している.更に,実体験を伴うSTEAM教育が重視されるようになり,STEAMの要素を多く含む電子工作の役割が高まりつつある.

 本小特集では,理工系の人材育成に寄与し,近年多様化と高度化が進んでいる電子工作について,学生の立場,教育研究に携わる学会,高専,大学の立場,及び普及に貢献している教材,出版,イベント開催の立場,それぞれの面から事例や最新の動向を紹介しており,関心を持つ読者や指導者の一助となることを期待している.

 最後に,執筆頂いた著者の皆様,小特集編集チーム及び学会事務局の皆様に深く感謝致します.

小特集編集チーム

 三木 哲也  齋藤  恵  髙村 誠之  小林 由枝  安達 宏一  荒木 徹也  石橋 圭介  伊藤  聡  井口  寧  梅田 周作  江口 真史  大島 大輔  大辻 太一  笠原 正治  川喜田佑介  川端 明生  小林 亮博  佐波 孝彦  中島  諒  中野 允裕  中村 祐一  真野  健 


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