電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
© Copyright IEICE. All rights reserved.
|
論文賞(第79回)は,2021年10月から2022年9月まで本会和文論文誌・英文論文誌に発表された論文のうちから下記の12編を選定して贈呈した.
(英文論文誌A 2022年5月号掲載)
ペトリネットは,並行的,非同期的,分散的なシステムを表現するための数学モデルの一つである.数学的基盤とグラフとしての視認性を持つことから,ペトリネットは,コンピュータソフトウェア,通信プロトコル,生産システム,ビジネスワークフローをはじめとする多くの人造システムをモデル化し,その解析に対する有効な結果が得られてきた.ペトリネットの構造はプレースとトランジションの2種類のノードを持つ二部有向グラフとして表され,その状態であるマーキングは事象の生起に対応するトランジションの発火によって遷移する.
本論文は,トランジションの発火に継続時間を導入した時間付きペトリネットの制御に対して,与えられたペトリネットと目標マーキング,並びに,マーキングの線形不等式条件を基本論理式とする時相論理式による制約条件に対して,制約条件を満たしつつできるだけ早く目標マーキングに到達する制御問題を新たに設定している.そして,この問題を最適制御問題として定式化して,混合整数計画問題に帰着させている.最後にシミュレーションによって提案手法の有効性を示している.
本論文は,特に理論的な面での独創性が高く評価される.マーキングの線形不等式を制約とするペトリネットの制御問題の解法は従来から提案されているが,それに比べて,以下の点で大きな進展が見られる.制約条件を,線形不等式を基本論理式とする時相論理式に拡張したことが最も重要な拡張である.従来は時間とともに不変な線形不等式の論理積だけを扱っていたが,条件を時変にしたこと,また,用いることができる論理演算を一般化したことによって,より柔軟な制約を表現できるようになった.更に,従来の単純な外部プレースによるフィードバック制御では制約条件を満たす状態を保持することだけが実現できていたが,混合整数計画問題に帰着させることで,目標マーキングへ到達することも実現できるようになった.
これを足がかりに更に複雑な制御問題の提案も見込まれており,ペトリネットの分野の研究に対する大きな貢献が期待される.
(英文論文誌A 2023年3月号掲載)
通信路における復号問題は一種の組合せ最適化問題とみなすことができる.しかしながら,一般的には計算量的に困難な問題であるため,最適化分野で得た知見を基礎とした近似的な解法が近年注目されている.
本論文では,広い応用範囲を持つ数理最適化技法である近接勾配法に基づいた新しい最適化ベースのLDPC符号に対する復号アルゴリズムが提案されている.提案復号法(Proximal decoding)は,通信路の条件付確率密度関数に対応する負対数ゆう度関数に対する勾配降下ステップと,符号制約多項式に関する符号近接演算子のステップから成る単純な再帰式で記述できることが示されている.特に,近似MAP目的関数の正則化において,符号語から遠いベクトルにペナルティを与える符号制約多項式を導入し,この符号制約多項式から符号近接演算子が自然に導かれることが論じられている.
更に,LDPC符号化massive MIMO通信路,相関ガウス雑音通信路,非線形ベクトル通信路など,幾つかの非自明な通信路モデルに対して,提案復号法の原理に従って再帰式の導出過程を示した.また,数値実験によって復号性能と複雑度のトレードオフに優れた性能を持つことを示している.提案復号法の原理が単純であるため,非自明で広範な通信路に応じて提案復号法の変種を自然に与えられることは,今後の幅広い適用の可能性を示している.
機械学習やスパース信号再生の分野で培われた幾つかの考え方や技術を通信路における復号問題へ適用することで,多様な通信路に対する復号法を一貫した手法によって構築できることを示したことは大きな貢献である.更に,提案復号法は復号性能と複雑度のトレードオフに優れた性能を持つため,今後の展開が期待される.これらの理由から論文賞に値する論文として高く評価できる.
(英文論文誌A 2023年3月号掲載)
フラッシュメモリの性能向上やDNA storageの実用化に向けてPermutation code(置換符号)が注目されている.置換符号は与えられた長さに対する全ての置換パターンを部分集合として持つ誤り訂正符号である.
本論文では符号の距離としてチェビシェフ距離に基づいた置換符号の符号化と復号の問題に取り組んでいる.
符号理論に関する従来研究の多くは最小ハミング距離に基づく限界距離復号を用いており,最小ハミング距離の大きな符号を構成することが課題の中心であった.これに対して本論文は符号の最小ハミング距離を前提とせずとも限界距離復号より多くの誤りを訂正できる疎グラフ符号の考え方を置換符号に導入している.
まず,置換符号と二元符号を組み合わせたconcatenated permutation code(連接置換符号)の最小チェビシェフ距離の解析において,外部符号に対し擬似距離を導入し,連接置換符号のチェビシェフ距離の導出に利用している.次に外部符号としてランダムな二元線形符号を用いた連接置換符号の距離分布を導出し,チェビシェフ距離の最小値の上界を導いた.その結果,軟判定復号に基づく置換符号において有益な研究成果が得られている.この点は独創的な結果であると言える.
また,疎グラフ符号である低密度パリティ検査(LDPC)符号を外部符号として,連接置換符号を構成した結果を示している.LDPC符号を用いた連接置換符号のsum-product復号器を定式化し,連接していない置換符号に対し硬判定復号を実行した場合よりも優れた復号性能を持つことを示している.特に通信路はストレージ向けの特徴的な通信路ではなく,符号理論でよく議論される加法的白色ガウス雑音(AWGN)通信路や,多元の対称通信路,二元消失通信路で評価しており,この点からも大きな貢献であると言える.
(和文論文誌B 2022年3月号掲載)
最優秀論文賞(第5回)に別掲.
(英文論文誌B 2022年5月号掲載)
数モードファイバ(FMF)を用いたモード分割多重(MDM)伝送は,大容量光通信システムの実現に向けた重要な技術である.MDM伝送システムでは,FMFを伝搬する複数の伝搬モードを異なる伝送チャネルとして利用するため,モード数に応じた伝送容量が期待されている.一方,MDM伝送ではモードごとの損失やクロストークといった従来は考慮する必要がなかった特性が重要となる.これらの特性は,FMFを伝送路として構築する際の接続品質に大きく依存することが知られている.更に,それらの値は温度やひずみ等の外部要因によって複雑に変化する.したがって,MDM伝送システムのポテンシャルを最大限に引き出すためには,FMFを用いた光ファイバ伝送路を構築する際に,接続点における損失やクロストークの最大値を測定して,その接続品質が問題ないかどうかを評価することが重要となる.
本論文では,2モードファイバ(TMF)における接続点で生じる損失及びクロストークの最大値を評価可能な方法を確立するために,ブリユアン光時間領域解析法(BOTDA)に基づく新たな方法を提案している.提案法では,モード合分波器を用いて任意の伝搬モードでポンプ光とプローブ光と呼ばれる二つの光を測定対象の光ファイバに入射し,それらの干渉によって生じるブリユアン利得を測定する.加えて,入射する伝搬モードの状態を変化させて測定を繰り返し,あらかじめ取得したブリユアン利得係数を用いて測定データを解析することで,任意の伝搬モードの損失やクロストークの最大値を取得する.実験では,提案法により得られたTMFの接続点における損失やクロストークの測定値がシミュレーション結果と一致することを確認し,提案法の有効性を示している.
本論文により得られた知見は,今後のMDM伝送技術の発展に資する有用なものであると考えられる.また,FMF伝送路を構築する際の試験技術の確立に向けた基礎を成すものであり,今後の発展性もあると考えられる.以上の理由から,本論文は本賞に値する論文として高く評価できる.
(英文論文誌B 2022年9月号掲載)
Virtual Reality(VR),オンラインゲーム,ドローンの遠隔制御,自動運転車等の高いリアルタイム性が求められるサービスが普及しつつあり,ネットワーク設備には低遅延にデータ転送を行うことが求められている.
一方で,低遅延にデータ転送を行うために,消費電力を犠牲にしたパフォーマンスチューニングや転送方式が採用されることが多く,消費電力の低減化が重要な課題となっている.
本論文は,広く普及した汎用サーバ上のLinuxカーネルにおいて,低遅延・高スループット・省電力を同時に達成するパケット転送方式を提案している.
具体的には,Linuxカーネルが採用する従来のパケット受信方式が抱える遅延問題に対して,低遅延と高スループットが期待できるポーリングモデルを採用しつつ,当該モデルの抱える電力消費問題に対して,sleep制御と高速なハードウェア割込みで起床させる仕組みを導入する点が独創的であり,また,これらを制約の多いカーネル内で性能を担保しつつ実用性・運用性高く実装している.
提案方式は,従来方式と比較して,省電力性を担保しつつ,従来ミリ秒オーダであった最大遅延時間をマイクロ秒オーダへ低減し,1.4~3.1倍のスループットを達成できることが確認されている.提案方式は,省電力性を担保しつつ大幅な低遅延性とスループットの改善が可能であり,広く普及したLinuxカーネルにおいて容易に利用が可能な実用性も持つことから,前述した高いリアルタイム性が求められるサービスを含む多くの利用シーンでの活用が見込まれ,今後ますますの情報通信産業の発展の礎となることが期待される.以上の理由から,本論文は,本論文賞にふさわしい論文として高く評価できる.
(英文論文誌C 2022年5月号掲載)
気象レーダや移動体通信基地局には,電気的にビーム走査が可能なAPAA(Active Phased Array Antenna)が用いられる.APAAには多数の送受信モジュールが搭載されているため,送受信モジュールには高出力・高効率化のほかに低コスト化が求められている.GaN-on-SiC(炭化けい素基板上に成長した窒化ガリウム)トランジスタは耐電圧,電子移動度が高く,高周波においても高出力・高効率な特性を有する.そのため,これまで送受信モジュールにはGaN-on-SiCトランジスタを用いた高出力増幅器や高出力スイッチなどのモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)が用いられてきた.GaN-on-SiC MMIC増幅器や高出力スイッチは高性能であるが,主にSiC基板が高価であることからコストが高くなる傾向にあり,送受信モジュールの低コスト化は困難であった.
本論文では,この課題を解決するために,送受信モジュールのGaN MMICによるドライバ増幅器,高出力増幅器,高出力スイッチから成るチップセットの低コスト化に向けた二つの方針について検討し,開発を行っている.低コスト化の一つ目の方針として,基板に低コストなシリコン基板を用いたGaN-on-Si MMICプロセスを適用している.二つ目の方針として,低損失・低コストなGaAs(ひ化ガリウム)MMICによる整合回路をGaN MMICと組み合わせている.
Xバンド(8~12GHz)において動作する20W級の送受信モジュール向けチップセットとしてGaN-on-Si MMICドライバ増幅器,GaAs入出力整合回路を用いたGaN-on-SiC MMIC高出力増幅器,GaAs出力整合回路を用いたGaN-on-Si MMIC高出力増幅器,及びGaN-on-Si MMIC高出力スイッチの四つのデバイスの開発を行い,従来の送受信モジュール向けGaN-on-SiC MMIC増幅器,スイッチと同等の高出力,高効率な特性を半分程度のコストで実現できることを示している.
本論文は気象レーダや移動体通信基地局向けAPAAに用いられる送受信モジュールの低コスト化に寄与し,社会インフラの幅広い普及に貢献する研究であることから,本会論文賞にふさわしい論文として高く評価できる.
(英文論文誌C 2022年9月号掲載)
本論文は,共振形の高周波インバータを改良し,13.56MHzなどのMHz帯において大電力,高効率,低ひずみの正弦波出力を実現する方法を提案している.無線電力伝送などのMHzシステムは,大電力・高効率の高周波インバータを必要とする.近年,高速スイッチングが可能な窒化ガリウムの高電子移動度トランジスタ(GaN-HEMT)が開発され,高効率の高周波インバータは実現可能になった.しかしながら,大半の市販GaN-HEMTの耐圧は650V以下であるため,高電圧による大電力化に限界があった.高周波用のE級インバータでは,GaN-HEMTの電圧が入力電圧の4倍に達するという問題がある.
本論文では,GaN-HEMTの電圧が電源電圧を超過しないハーフブリッジインバータに着目し,大電流化によって大電力を達成する.ハーフブリッジは電圧源回路であるため,出力電力が電源電圧と負荷によって定まるという不自由があった.そこで,出力電力の自由な設定のために,直列共振器の前段にインピーダンス変換器を設けた「L-S受動回路網」を提案している.これは高い設計自由度を有し,所望の値の大電力と,高効率,低ひずみの正弦波出力が実現する.計算機シミュレーションでは,効率99.12%で3kWの出力電力が設計どおり得られ,471Wの実機実験では,99.4%の高効率を実現している.
L-S受動回路網は,個々の性能要件に対する個別最適化を可能にする.まず前段のインピーダンス変換器は,大電流化により大電力を引き出す目的に特化して設計できる.変換後の電力は,電圧が高く電流が小さいため,後段の直列共振器には大電流が流れない.そのため,電力損失と共振電圧のストレスが軽減され,直列共振器は雑音遮断・正弦波生成の目的に特化して設計できる.
また,本論文は,意図した値の電力を出力させる実用的な設計方程式を提示しており,これを利用すれば提案インバータを容易に設計できる.以上のように,本論文は,GaN-HEMTを用いた高周波大電力インバータを従来よりも容易に,かつ確実に実現可能にし,MHz高周波技術の普及・発展に貢献するものと言える.
(和文論文誌C 2022年9月号掲載)
電子機器の小形化・高機能化・高集積化に伴い,基板実装の3D化・多層化・微細化の技術が進んでいる.このような実装基板の高度化により,これまで以上に故障モードは多様化・複雑化し,故障箇所の特定においては,早期生産部門へのフィードバックの観点から非破壊・高精度・高速に進行されることが求められている.
本論文では,電気―光サンプリング技術を用いた高分解能TDR(Time Domain Reflectometry)測定システム,アドバンテスト製TS9001 TDRを使い,数µmレベルの位置特定分解能が要求される多層基板配線の不良箇所を解析する手法を検討した.
高精度解析の過程では,複数の基準配線の反射波形結果と各区間別の時間と距離の行列を用いた連立方程式を解くことで,不良配線を構成するビアと複数の異なる層配線ごとの電気パルス波の伝搬速度を個別に導出した.個別に導出した各区間別の伝搬速度を組み込んだ高精度なTDR解析により,オープン不良配線の不良箇所を非破壊で数十µmレベルの範囲内で特定することができた.本研究の高精度不良箇所絞り込みにより,次段階のX線検査や破壊検査におけるナノレベル欠陥解析を更に効率的に進められることが期待できる.
本論文で検討された各区間別の伝搬速度解析は,基板配線内の不良箇所の特定だけでなく,各層にまたがったビアクラックや分岐回路配線,インタポーザ,それらを接合するバンプ接続のソルダクラックやボンディングのオープン・ショート不良,SiP(システムインパッケージ)の各部位の不良切り分けにも活用できると考える.
また,完全なオープンではなく,一部が連結しているようなビアクラックであっても,僅かなインピーダンスの変化の時間位置を検出することによって,不良箇所を特定できることが分かった.
本研究で検討された各区間別の伝搬速度解析は,不良箇所の特定だけでなく,高速基板配線設計における各部でのインピーダンスマッチング状況把握や,各部位での伝搬速度把握にも応用できるだろうと考える.
(英文論文誌D 2022年1月号掲載)
深層ニューラルネットワーク(DNN)は画像認識タスクにおいて高い性能を持ち,現在では自動運転などの様々な場面での実用化が進んでいる.一方で,DNNは入力される画像に雑音などの微小な変化を加える敵対的攻撃にぜい弱である問題が指摘されている.また,このような敵対的な変動を学習用データに加えるデータ汚染攻撃の存在も知られており,DNNの性能を維持するために汚染されたデータを見つけ,修正する技術の研究が進められている.
本論文で著者らは,①敵対的データを含むデータセット構築のための標準的手法,②敵対的画像検出のための画像処理操作応用手法,③敵対的画像修正のための2段階訂正処理を提案している.敵対的画像サンプルの検出には,JPEG圧縮,ガウシアン平滑化,回転及び拡大縮小といった伝統的な画像処理操作が通常及び敵対的画像に与える影響に着目した手法を用いている.検出された敵対的画像データの修正には,2段階の修正処理を適用している.この修正処理は,第1段階ではラベル修正,第2段階では画像修正を行う.
敵対的攻撃データを含むデータセットを用いた評価実験を行い,通常画像への影響を2%に抑えつつ敵対的画像の90%を修正できる効果が得られており,提案手法の高い有効性が示されている.
本研究は,画像データセットに含まれる敵対的サンプルの検出と修正という重要な課題に取り組んでいる.提案された検出,修正方法は独自性があり,論文としての完成度も高い.敵対的データの存在が課題となる画像以外のモダリティへの発展も期待できる研究であり,論文賞にふさわしい内容であると高く評価できる.
(和文論文誌D 2022年3月号掲載)
音声感情認識は,入力された音声から人の感情を識別する技術であり,音声対話を伴うアプリケーションでの実用化が進んでいる.例えば,コールセンターでは顧客満足度やオペレータの離職リスクの分析に応用されている.またロボット対話において,人に寄り添った応対の実現が期待されている.近年,深層学習の発展に伴い音声認識技術の性能は飛躍的に高まっており,音声を書き起こすだけでなく感情などの非言語情報の取扱いも重要になっている.
本論文では,時間解像度の異なる複数の特徴量を計算し,それらをブースティングにより統合する音声感情認識手法を提案した.複数の異なる時間窓で短時間スペクトル分析を行い,得られた特徴量を統合することで感情の種類に応じた柔軟な推論を実現している.これらの特徴量は深層学習モデルを用いて潜在特徴量へ変換された後,ブースティングにより統合され感情ラベルが推定される.ここでブースティングには,少量学習データに対応するためにGradient Boosting Decision Treeを用いた.また時間窓の異なる複数の特徴量をより効果的に統合するために,特徴量の次元ごとに中央値との大小比較を表す中央値特徴量を提案した.網羅的な実験により提案手法の有効性を示しており,例えば,30以上の時間窓を用いた実験では感情ごとに最適な時間解像度が存在することを示している.また,EmoDBとRAVDESSという二つのデータベースを用いた実験により,言語によっても最適な時間解像度が異なることを示唆しており,RAVDESSデータベースではstate-of-the-artの精度を達成している.更に,感情ごとの詳細な実験結果も記載されており,コミュニティへの貢献度が高い点も本論文の特徴である.
著者らも本文で述べているとおり,本研究の手法はEmoDBで高い精度が報告されている畳込みニューラルネットワークに基づく手法と組み合わせることもでき,更なる精度向上が期待される.以上の理由から本論文は,本会論文賞に値する論文として評価できる.
(英文論文誌D 2022年10月号掲載)
本論文は,密な複数視点からの見えを表現するライトフィールド(LF)を,単一画像(スナップショット)から再構成するスナップショット圧縮LFイメージングを扱う研究である.従来,複数画像からのLF復元で用いられてきた符号化開口やフォーカルスタックと呼ばれる手法が試みられてきたが,これらをスナップショット(圧縮)LFイメージングに拡張し得る手法として,時間多重符号化開口(TMCA: Time-Multiplexed Coded Aperture)及び符号化フォーカルスタック(CFS: Coded Focal Stack)という二つの手法が挙げられる.これらは,画素ごとに異なる開口・焦点深度による観測値を埋め込むことで,LFの復元に必要な情報を単一画像に埋め込む手法である.
本研究では,両手法で取得された画像からLFを復元するための深層学習に基づくパイプラインを設計し,他のLF復元手法と比較・評価した.結果,TMCA及びCFSは,他のスナップショットLF復元法に比べて高い再構成品質を達成し,複数画像を用いた手法に比べても遜色ない性能を発揮することを示した.
本論文の最大の貢献は,スナップショット圧縮LFイメージングにおいて,TMCA及びCFSという二つの手法を比較可能な条件で評価し,両手法の優位性を明らかにした点である.そのために,両者を統一的に扱う深層学習フレームワークを開発した点も高く評価される.スナップショットLFイメージングの文脈で両手法の有効性を比較・検証することは初めての試みであり,LFイメージングの効率性と品質の両立の実現に向け,学術的にも高く評価されるべき成果である.
オープンアクセス以外の記事を読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。
電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード