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解説
AIをめぐる倫理的問題とその先にあるもの
Ethical Issues of AI and What Lies Beyond
A bstract
AIをめぐる倫理的問題には,法制度や技術的側面に関する短期的な問題から,SF的な可能性に関する長期的な問題まで,様々なものがある.その中で特に興味深い問題は,両者の中間に存在する.中期的な倫理的問題は,AIがもたらす社会の根本的な変化に関わるものであり,知識や自律といった事柄の価値を問い直すものである.このような問題を検討することは,幸福な生とは何かを改めて考える契機となる.幸福な生とは何かを考えることで,その実現につながる仕方でAIを活用することが可能になると考えられる.
キーワード:AI,ディジタルテクノロジー,倫理学,幸福
第3次AIブームと言われるようになってから,既に10年ほどがたつ.近年のAI研究の進展は,画像認識において深層ニューラルネットワークが従来のシステムを大きく上回るパフォーマンスを見せたことに始まり,将棋や囲碁といった,従来は人間のトッププレーヤに勝利することが難しかったゲームにおいても,AIは人間をはるかに上回るパフォーマンスを見せている.近年では,生成AIの能力が飛躍的に向上していることも社会に大きな議論を巻き起こしている.これまで考えられていたAIの限界は次々に克服され,AIの可能性に関しては,根本的な見直しが必要となっている.
AI研究の急速な進展に伴い,AIをめぐる倫理的問題の議論も活発に行われている.研究書も多数出版され(1)~(3),各国ではAI研究に関する様々な指針も設けられている(4),(5).それらの議論に目を向けると,その関心には大まかな一致が見られ,主要な問題は短期的なものと長期的なものに二極化する傾向にあることが分かる.しかし,AIをめぐる真に興味深い問題は,その中間にあるように思われる.本稿では,AIをめぐる短期的な問題と長期的な問題を概観した上で,その中間にはどのような問題があるのか,そして,それらの問題を考えることを通じて見えてくるものは何かということを考えてみたい.
近年出版されたAI倫理に関する書籍では,幾つかの問題が共通して論じられている.その多くは,AIの社会実装において,既に現実のものとなっている問題である.
そのような問題の代表的なものは,責任に関する問題である(6).AIを搭載した自動運転車が事故を起こしたとき,その責任を負うのは運転者だろうか,メーカだろうか,AI研究者だろうか.AIを搭載した自律型兵器が誤って民間人を攻撃した場合,その責任を負うのは,現場でその兵器を使用している軍人だろうか,軍の責任者だろうか,メーカやAI研究者だろうか.自動運転車や自律型兵器の働きがあらかじめ詳細にプログラムされている場合と,機械学習によって固有の行動パターンを学習した場合では,責任を負うべき主体は変わるのだろうか.
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