巻頭言 学会運営のインセンティブ

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.106 No.8 (2023/8) 目次へ

次の記事へ


巻頭言

総務理事 岡 宗一学会運営のインセンティブ Incentives for Society Management

 私は2018年からエレソ企画広報,2020年からエレソ総務幹事,そして2022年から総務理事を務めてまいりました.絶え間なく6年にわたって学会運営を務めておりますと,皆様御承知のとおり本タイトルの話題が耳に入ってきます.「学会運営を頑張っても所属組織で評価されない」というため息が,大学・企業を問わずささやかれているのです.しかし,私自身は学会運営をやって心からよかったと考えており,具体的には以下に挙げる三つのインセンティブを感じていました.

 一つ目は,「最新技術を学ぶ意欲が湧いたこと」です.やはり学会運営には様々な企画立案がつきものですから,自身の専門にかかわらず幅広い知識を持っていないと話題を作れません.この原稿を書く直前,会誌の6月号を喫茶店に持ち込んで読んだのですが,小特集「Beyond 5Gを支えるフォトニクス技術とその展望」をはじめとして,数々のすばらしい記事に感嘆致しました.コーヒーを片手に時を忘れて読みふけり,席を立つ頃には隣の客が3回入れ替わっていました.これだけ内容のある会誌を作っている信学会を私は誇りに思いますし,それを意欲的に読みたいと思えるようになった自身の変化が何よりうれしいのです.

 二つ目は,「社会人としてのニュートラルな作法を学べたこと」です.会社内で仕事をしていると自社の価値観や立場の違いを意識しますし,対外的な付き合いでも利害が絡めばポジショニングというものがあります.ところが学会では,様々な属性と価値観の方々が真に対等な位置関係で交流しています.私は今思い返すと恥ずかしいぐらい言動が未熟であり,周囲の方々に大変失礼をしておりました.学会では何をお願いするにもボランティアが基本ですから,快くお引き受け頂くには頼み方があります.会議の発言からメールの書き方に至るまで,諸幹事や事務局の皆様から礼節の基本を教えて頂いたと痛感しております.

 三つ目は,「かけがえのない人脈ができたこと」です.どこで何を議論しても二言目には『連携』が奨励される昨今ですが,急に連携が必要になってから人を探すようでは遅いと思います.付け焼刃で人を紹介してもらっても,その方との信頼が築かれていない状態ではうまくいきません.生身の人間同士が意思疎通するには相応の時間を必要とします.研究もビジネスもスピード重視の時代ではありますが,人間同士の深い関係だけはインスタントに作れないものです.相手の専門分野,価値観,人柄など,時間を掛けて丁寧に理解することで連携の準備が整います.学会運営をしておりますと,そのグループの方々と頻繁に会合して業務を進めますから,意識せずとも自然に深い相互理解が醸成されます.思えばこの6年間,ICT業界では末席どころか全く無名の私が,どれほど多くの方々と関わらせて頂いたでしょうか.アカデミックにせよ,ビジネスにせよ,「連携とは人を知っているかどうか」という原点に立ちますと,信学会以上に優れた人脈づくりのコミュニティはないと思えるほどです.

 確かに学会運営の仕事は大変な側面があります.それは大いに共感して余りあるところで,様々なポジションで奮闘しておられる皆様には頭が上がりません.私の場合も苦労はございますが,これを「良薬口に苦し」だと思って頑張っています.上記のように得られるものが大きいからこそ,それなりの苦労を伴うのだと.これだけ大きな学会を運営するには,皆様のお力添えを必要としています.そしてやるのであれば,是非前向きに取り組んでいこうではありませんか.来る9月にはソサイエティ大会が現地開催されます.私は今から待ち遠しいのですよ,名古屋大学東山キャンパスの香りと,そこで待ち受けている皆様との出会いが.


オープンアクセス以外の記事を読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。