小特集 接近するバーチャルとリアル――メタバース・ディジタルツインの現在と未来―― 小特集編集にあたって

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Vol.106 No.8 (2023/8) 目次へ

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小特集

接近するバーチャルとリアル

――メタバース・ディジタルツインの現在と未来――

小特集編集にあたって

編集チームリーダー 黒川茂莉

 2021年にFacebook社が社名をMeta Platforms, Inc.に変えたのは記憶に新しい.それを契機に,メタバースが技術,ビジネス両面で注目を集めている.一方,リアル空間の再現という点で関連のあるディジタルツインも,実社会の課題解決への貢献が期待されている.

 メタバース,ディジタルツインは,共にバーチャル空間でリアリティを表現することを狙った技術である.メタバースがバーチャル空間でのユーザ体験を重視しているのに対し,ディジタルツインはリアル空間を再現しシミュレーションや最適化を行う目的で活用されることが多い.このように重視する点は異なるが,メタバース,ディジタルツインはリアリティを持ったバーチャル空間の構築・活用を目指す点で関連がある.共にバーチャルとリアルの距離を縮め,相互作用を高めるポテンシャルを秘めており,その共通性に着目し,本小特集は「接近するバーチャルとリアル」と題し,両方を取り扱うこととした.

 前半はメタバースの動向と具体例を示す.1章では,廣瀬通孝氏(東京大学)から,俯瞰的な立場で,メタバースの成り立ちとその分類,これからの方向性について解説頂く.次に2章では,川本大功氏(KDDI)から,リアルに接近するメタバースの具体例として都市連動型メタバースとその実サービスである「バーチャル渋谷」を紹介頂く.更に,メタバースにおいてリアリティを高める技術として,3章で青山一真氏(東京大学)から神経刺激の活用,4章で小玉亮氏(豊田中央研究所)からVR(バーチャルリアリティ)技術を紹介頂き,5章では雨宮智浩氏(東京大学)からVR技術やアバタの教育現場への利活用を紹介頂く.

 後半は主にディジタルツインやその基盤について解説する.6章では,深山篤氏(NTT)から,ディジタルツインの中でもリアル空間での人の活動に着目した人ディジタルツインとその発展形である「Another Me(注1)」を解説頂く.7章では藤澤克樹氏(九州大学)からディジタルツインの数理・情報技術とそのスマート工場への応用を,8章では簗瀬洋平氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)からゲームエンジンのディジタルツイン,メタバースへの活用を解説頂く.

 最後に9章では,石井亮氏(PwCアドバイザリー)から,社会システムとしてメタバースとディジタルツインが融合していく可能性,展望と課題を解説頂く.

 2020年に始まったコロナ禍はそれまでの暮らし方,働き方を見直すきっかけとなり,バーチャル,リアルそれぞれの価値が改めて認識されたように思う.メタバース,ディジタルツインは,それらの価値を更に高めることが期待できる.メタバースによりリアル空間で訪問しなくてもあたかも訪問したような体験ができることは,バーチャル空間の価値を更に高めることにつながるだろう.また,ディジタルツインによりリアル空間で起こり得る様々な事象をシミュレーションすることは,リアル空間での行動に関して正しい判断を支援することにつながるだろう.本小特集が,メタバース,ディジタルツインという元来垣根のない技術群を,Society 5.0の実現に向けて社会,産業で実装していく際の参考となれば幸いである.

 最後に,多忙な折,執筆に御尽力頂いた執筆者の皆様に感謝申し上げます.また,小特集編集チームの皆様には執筆候補者の提案・調整や校閲などに御協力頂きました.この場をお借りし,感謝申し上げます.

小特集編集チーム

 黒川 茂莉  江島 將高  﨑村 広人  長谷川彩子  細野美奈子  市原 英行  伊藤 弘章  圓道 知博  工藤 文也  小林 亮博  小林 優佳  櫻田  健  佐藤 生馬  白石 壮馬  田高 礼子  福嶋 政期  三川 健太  密山 幸男  矢野 敦仁  吉岡 隆宏 


(注1) Another Meは登録商標.


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