解説 光を用いた音の可視化と精密計測

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 解説 

光を用いた音の可視化と精密計測

Imaging and Precise Measurement of Sound by Light

石川憲治

石川憲治 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所

Kenji ISHIKAWA, Nonmember (NTT Comunication Science Laboratories, NIPPON TELEGRAPH AND TELEPHONE CORPORATION, Atsugi-shi, 243-0198 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.106 No.9 pp.849-854 2023年9月

©電子情報通信学会2023

A bstract

 音の計測は一般にマイクロホンを用いて行われるが,光を用いて音を計測する光学的音響計測技術の研究も精力的に行われている.光を用いることで,高空間分解能イメージングや測定対象場を乱すことのない非接触高精度計測を実現することができる.特に近年は,偏光高速度カメラを用いた可聴音場のイメージング技術の確立及び著しいSN比の向上が注目すべき点として挙げられる.本稿では,計測原理の解説,マイクロホンと光計測の特徴の比較,近年の研究事例及び将来展望について紹介する.

キーワード:光学的音響計測,音場イメージング,音響光学効果,干渉計,ハイスピードカメラ

1.は じ め に

 音は空気の粗密波であり,生物による言語・非言語コミュニケーション,音楽や演劇等の芸術文化表現,物体の力学的パラメータの測定,産業機器の稼動状態診断,媒質の温度や密度のセンシングなど,身の回りの様々な情報伝達・収集に活用されている.音の計測には,振動膜を介して音圧を電気信号に変換するセンサであるマイクロホンが用いられている.マイクロホンは19世紀後半に電話の発明とともに開発され,以降約150年間にわたって音のセンサとして広範に用いられてきた.大気圧の百万分の一の圧力変動であっても検出可能な非常に優れたセンサである一方,その仕組みは誕生以降大きく変わっておらず,幾つかの制約が存在することが知られている.例えば,マイクロホン自身の存在によって音波が散乱し測定対象である音場が変化してしまうことや,空間分解能や同時に観測できる測定点数の現実的な制限,個別に感度校正が必要である点などである.これらはマイクロホン自身の構造に起因するため根本的に解決することは難しいと考えられている.

 光を用いた音の計測は,マイクロホンとは根本的に異なる特徴を持った計測技術として注目されている.この技術は光学的音響計測と呼ばれており,音によって光に僅かな変化が生じることを利用して光学的に音を検出する.その特徴は例えば,①音の測定位置にセンサを配置せずに遠隔から非接触に音を観測する,②ハイスピードカメラを用いて瞬時に音の空間分布をイメージングする,③光の物理的性質に基づいた音圧の定量計測を可能とする,などが挙げられる.光による波動現象の観測は古くから衝撃波や大振幅超音波には利用されてきたが(1),近年の計測技術の進展により,従来は難しかった可聴音(注1)の計測が可能となった.こうした背景の下,音響分野での光学技術の活用が広がり分野横断的な研究領域となりつつある.

 本稿では主に可聴音を対象として,光学的音響計測の計測原理,近年の動向,及び将来の展望を概説する.なお本稿のほかに,入門的な解説記事(2),(3)及び応用事例としての楽器音計測に関する解説記事(4)等も必要に応じて参照頂ければ幸いである.


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