巻頭言 変化は不可避である

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.106 No.9 (2023/9) 目次へ

次の記事へ


巻頭言

変化は不可避である Change is Inevitable会計理事 井上真杉

 変化は不可避である.

 生物も自然も惑星も,文化も政治も,あらゆることが変化し続けていく.たとえ変化していないように見えても,そのスピードや程度に違いはあれ,変化していく.この常に変化していく世界において,およそ30年前に普及が始まったインターネットとWebは,製造,消費,移動,教育,就業など,それこそゆりかごから墓場に至るあらゆる生活様式を加速度的に変化させてきた.近年のディジタルテクノロジーはそれを一層加速させ,もはや人類が受容できる速度を完全に超えているほどである.昔の成功体験が当てはまらない.既存のビジネスモデルが通用しない.パラダイムシフトが起きている.それは当然なのである.

 インターネットのれい明期,将来の発展を見通せたものは誰もいなかった.映画や放送,レコード,フィルムカメラ,レンタルビデオなど様々な分野で世界的な企業が退場を余儀なくされた.生き残った企業との差は何であったろうか.インターネット誕生前から存在していた大企業からはいま台頭著しいGAFAMは生まれなかった.なぜであろうか.生成AIを前にして,尻込みして利用を禁止したり制限したりする組織と,積極的に活用を試みる組織とがある.この違いはなぜ生まれ,それぞれにどのような未来をもたらすであろうか.これと似た事例を何度も目にしてこなかっただろうか.

 変化は不可避であり,その変化の予測も難しい.不可避な変化に的確に順応し,それを取り込み,更にプラスに生かしていけるのが理想かもしれない.そのためにはまず,興味・関心と意欲を持つことであろう.個々人だけではなく,組織としても.そうして初めて日々の変化や大きな変化の兆しを見つけることができるかもしれないし,それに順応し取り込もうと思えるかもしれない.

 不可避な変化に対して,雑誌「Wired」創刊編集長のKevin Kellyはこう言う.プロダクトよりもそれを生み出すプロセスが重要であると.もはやプロダクトに完璧,完成という概念はなく,常に変化していくと.それを使う人間もまた,手にした製品やサービスを常にアップデートしていかなければならないし,アップデートされた機能やサービスに常に順応し受け入れていかなければならないと.

 電子情報通信分野に身を置く我々は,高品質な「プロダクト」を完成させるために,従来どおり,技術を極める研究開発や教育に邁進している.これは世界が必要とし誰かがやらなければならない.しかし,不可避な変化に対してその「プロセス」が最適な形になっているかもよく考えていきたいところだ.そして研究開発や教育に携わる我々一人一人もまた,不可避な変化に順応していけるよう,人材開発やリスキリングなどで恒常的にアップデートしていけるとよいのだろう.

 医師によれば,意欲・好奇心・創造性・計画性をつかさどる前頭葉は40代から老化が始まるという.外見や体感で分かる筋力や柔軟性の衰えとは違うので,分かりにくい.研究開発や教育の現場はもちろんのこと,本会の運営も,不可避な変化に順応して持続・発展していくために,若い力を確実に(積極的にという程度ではなく)借りて,変化に対応できる組織体制と運営方法(プロセス)を研究開発し実装していくことが必要であろう.女性や国内外の外国籍会員の力も同じく必要である.DE & I(ダイバーシティ,エクイティ&インクルージョン)にいかに取り組めるかが本会の未来を左右する.


オープンアクセス以外の記事を読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。