特別小特集 DAO(分散型自律組織)の可能性について 編集にあたって

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Vol.107 No.1 (2024/1) 目次へ

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特別小特集 DAO(分散型自律組織)の可能性について

編集にあたって

編集チームリーダー 佐波孝彦

 本誌の読者の大半は,電子情報通信技術に関わる研究者であるが,基礎・応用研究を行っている多くの研究者は,自分の関わる分野の技術そのものは理解していても,それらの技術を使って作られた製品やシステムの上でどのようなサービスが動いているのかの詳細を把握している人は意外と少ない.同様に,Webサービスやアプリの開発者として,内部の仕組みは理解していても,サービスの根幹を支える通信技術やデバイスに精通している人も少ないのではないかと思う.

 本特別小特集で取り上げるブロックチェーンもまさにそのような技術である.ブロックチェーンとは,電子署名とハッシュポインタを用いてデータの改ざんを容易に検出できるデータ構造を持ち,そのデータをネットワーク上に分散する多数のノードに保持させることでデータの可用性や同一性等を実現する技術である.ブロックチェーン技術そのものや概要については理解していても,それを使ったサービスを熟知している研究者は非常に少ない.

 近年,このブロックチェーンの仕組みを利用したDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)という組織形態が注目を集めている.DAOは従来の企業や組織のように社長や代表者,管理者といった役割を持つ人が存在しない,参加者間で公平に意思決定が行える組織である.DAOの資金調達には株式の役割を果たす仮想通貨のガバナンストークンが利用されるため,ともすると投資目的での話題のみが先行しがちだが,現在DAOの根底にあるフラットな組織運営を生かす新たな潮流が生まれつつある.そこで,本特別小特集ではDAOの特徴と動向について解説して頂くこととした.

 第1章では,Web3時代におけるブロックチェーンの役割とDAOの仕組みについて概要を解説頂いた.同時に,日本におけるDAOの課題や今後の可能性についても触れて頂いている.

 第2章では,ブロックチェーンの要素技術の一つであるDID(Decentralized Identity)について解説頂いた.欧州連合(EU)におけるGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)等,個人のプライバシーを保護する動きが活発化する中で,個人のアイデンティティを自分自身で管理,利用する仕組みが求められている.それを実現するDID技術とその動向について紹介頂いている.

 第3章では,実際にDAOを運営するにあたって,必要となる各種機能を実現する「DEVプロトコル」の概要について解説頂いた.また,DEVプロトコルを使って実装されたDAOのプラットホーム「Clubs」を利用したクリエイターによるDAO実践例も紹介頂いている.

 最後に第4章では,学会運営にDAOを活用しているデジタル人材育成学会の事例を紹介頂いた.デジタル人材育成学会は日本初の「学会DAO」を立ち上げたが,学会活動に適したDAOについて,トークンの扱いやルールなどの設定をどう設計して運用していくのか,またDAOの目標の達成手順などについて,実践的な例を紹介頂いた.

 いずれの記事も大変興味深く,御多忙な中,執筆に御尽力頂いた著者の皆様に深く感謝申し上げます.更に,特別小特集編集チーム及び学会事務局の皆様には本特別小特集の校閲・編集作業に多大な御協力を頂きました.この場をお借りして御礼申し上げます.

特別小特集編集チーム

 佐波 孝彦  伊藤 弘章  笠原 正治  黒川 茂莉 


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