解説 ミリ波4K8Kワイヤレスカメラの開発

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Vol.107 No.10 (2024/10) 目次へ

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 解説 

ミリ波4K8Kワイヤレスカメラの開発

Development of 4K/8K Wireless Camera Using Millimeter-wave

松﨑敬文 山岸史弥 居相直彦

松﨑敬文 正員 日本放送協会放送技術研究所

山岸史弥 正員 日本放送協会放送技術研究所

居相直彦 正員 日本放送協会放送技術研究所

Yoshifumi MATSUSAKI, Fumiya YAMAGISHI, and Naohiko IAI, Members (Science & Technology Research Laboratories, Japan Broadcasting Corporation, Tokyo, 157-8510 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.10 pp.949-954 2024年10月

©2024 電子情報通信学会

A bstract

 放送番組制作においてワイヤレスカメラは,有線接続したカメラと比べて機動性が高く,ダイナミックな映像表現が可能であることから,スポーツ中継をはじめ,音楽番組などの番組制作に欠かせないものとなっている.NHK放送技術研究所では,放送事業用無線伝送システムに割り当てられた42GHz帯のミリ波を使用して,高精細な4K8Kの映像を無線伝送するミリ波4K8Kワイヤレスカメラを開発した.本稿では,システムの概要と放送番組での運用について解説する.

キーワード:ワイヤレスカメラ,ミリ波,SC-FDE,4K8K

1.は じ め に

 ワイヤレスカメラはその機動性を生かして有線カメラでは難しいダイナミックな映像表現や,動線確保のためにケーブルが敷設できない場所からの映像伝送を可能にすることから,スポーツ中継や音楽番組などの番組制作に欠かせないものとなっている.NHK放送技術研究所ではこれまでに,放送事業用無線伝送システムに割り当てられた41GHzから42GHzのミリ波帯の電波を使用する,Orthogonal Frequency Division Multiplexing(OFDM)方式のミリ波2Kワイヤレスカメラ(ミリ波モバイルカメラ)を開発し,多くの番組で使用してきた(1),(2)

 スポーツ中継や音楽番組などの番組制作において,複数のカメラで撮影した映像を演出に応じて切り替える手法がとられている.そのため,ワイヤレスカメラは有線接続のカメラで撮影した映像と切り替えても違和感がないように,高画質かつ低遅延であることが求められる.更に,途切れることのない高信頼な移動伝送性能,小形で低消費電力なカメラ側装置,及びカメラ制御と送り返し映像のための双方向伝送機能も重要な要素である.このように,高画質かつ低遅延,及び高信頼が求められるワイヤレスカメラに対して,一般的に通信で用いられる誤り発生時の再送機能では,遅延や画質の変動につながるため適しておらず,所望の伝送容量を常に確保できる帯域保証形のシステム設計が要求される.

 2018年には衛星放送による4K8Kの放送サービスが開始され,超高精細な4K8K映像を高画質かつ低遅延で無線伝送できるワイヤレスカメラの実現が期待されてきた.そこで,帯域幅を広く利用できるミリ波の利点を生かし,従来のミリ波モバイルカメラの2倍のチャネル帯域幅を用いて,185Mbit/sの伝送容量を安定的に伝送可能なミリ波4K8Kワイヤレスカメラを開発した(3).本稿では,開発したミリ波4K8Kワイヤレスカメラの概要と放送番組での運用について解説する.

2.ミリ波4K8Kワイヤレスカメラシステム

 ミリ波帯は帯域幅を広く利用できる(注1)ため伝送容量の拡大が見込めるものの,電力増幅器に用いられる半導体デバイスの電力効率はマイクロ波帯と比較するとまだ低いことから,高い送信出力を得ようとすると装置の大形化や消費電力の増大につながってしまう.そこで,ミリ波4K8Kワイヤレスカメラの伝送方式として,Single-Carrier Frequency Domain Equalization(SC-FDE)方式を採用した.シングルキャリヤ変調のSC-FDE方式は,マルチキャリヤ変調のOFDM方式よりも平均電力に対するピーク電力の比であるPeak to Average Power Ratio(PAPR)が小さい.そのため,電力増幅器の出力バックオフを小さくしても電力増幅器の非線形ひずみの影響を受けにくいことから,定格電力の小さい電力増幅器を使用することで消費電力の大幅な増加を抑えながら高出力化することが可能となる.更に,受信側で周波数領域の波形等化を行うことで,OFDM方式と同等のマルチパス耐性を見込むことができる.


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