オピニオン 企業と大学から見た高周波集積回路技術の課題

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Vol.107 No.10 (2024/10) 目次へ

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オピニオン 企業と大学から見た高周波集積回路技術の課題

田中 聡 広島大学大学院 先進理工系科学研究科量子物質科学プログラム 

1.は じ め に

 筆者は1985~2022年の間,企業((株)日立製作所,(株)ルネサスエレクトロニクス,(株)村田製作所)で移動体通信向けRFIC(Radio Frequency Integrated Circuit),PA(電力増幅器)等の開発を行った後,2022年秋から広島大学で奉職している.企業では携帯電話等最大でも5GHz以下の周波数帯のアプリケーションに向けた開発を行っていたが,大学ではサブテラヘルツ帯(275GHz)の研究に参画している.企業での開発と関連はあるが少し離れた業務を担当することで,改めてRF技術に関する研究推進の課題について気づきもあったのでその雑感を述べる.

2.企業におけるRF技術開発概要

 1985~2008年を(株)日立製作所,2008~2012年を(株)ルネサステクノロジ(ルネサスエレクトロニクス株式会社),2012~2022年を(株)村田製作所で設計・開発業務に携わった.

 1985~1997年の間はVTR(Video Tape Recorder)用アクティブフィルタIC(Integrated Circuit),pager用IC,磁気テープ用ディジタル等化LSI(Large Scale Integrated circuit),PHS(Personal Handy Phone System)用GaAs MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit),RFID(Radio Frequency Identification)Tag用ICなど多くの種類のアプリケーションに向けたICを開発した.1997~2006年の間は第2世代の携帯電話であるGSM(Global System for Mobile communications)用及び第3世代の携帯電話であるW-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)用のRFICを開発した.2006~2012年の間はLDMOS(Laterally-Diffused Metal-Oxide Semiconductor)FET(Field Effect Transistor)を適用したGSM,W-CDMA用のPAモジュールを開発した.2012~2022年の間は化合物HBT(Heterojunction Bipolar Transistor)を適用したGSM/W-CDMA/LTE(Long Term Evolution)/NR(New Radio)向けPAモジュールを開発した.

 自身の企業における開発の経緯を振り返ると,キラーアプリケーションである携帯電話の出現までアプリケーションを探索していた初期と,主に第2世代携帯電話をアプリケーションとしたRFICとPAモジュールを開発していた中期と,スマートフォン向けPAモジュールを開発していた後期ととらえることができる.

 RFICの開発においては図1に示すように,1990年代前半には個別部品で組み上げていたトランシーバ部の集積化を進め,2000年代中盤にはほぼ全ての主要部品を集積化することで小形化,部品点数削減によるコスト削減,工数低減などを実現した.LNA(Low Noise Amplifier),Synthesizerの集積化に始まり,IF(Intermediate Frequency)フィルタ,IR(Image Rejection)フィルタなどの部品点数削減をDCオフセット校正機能付きのダイレクトコンバージョン受信回路の適用により実現し(1),VCO(Voltage Controlled Oscillator)のオンチップ化をループ利得校正回路などのディジタルアシスト技術でサポートした(1),(2)

図1 携帯電話端末用RFICの集積化のトレンド  世代が進むにつれ,個別部品を集積化し2000年代中頃には全ての機能をRFICに集積化.


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