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半導体はあらゆる産業,社会経済システムの根幹である.グリーン化やディジタル化の鍵を握る技術であり,カーボンニュートラルやSociety5.0の実現に向けた動きが加速する中,半導体が果たす役割はますます大きくなっている.中でも,AI半導体やロジック・メモリ,それらをインテグレーションするチップレット,センサや変換デバイスに代表されるMEMS,パワー半導体等の半導体集積回路は,自動車からコンピュータやスマートフォン,家電製品,更には産業機器まで,あらゆるディジタル機器のシステムの中核を支える「キーデバイス」と言え,集積回路産業とそれを支える技術の維持・進展は重要な国家課題である.また,半導体は,経済安全保障に直結する重要な産業技術でもある.そのグローバル市場の獲得は,これまで日本を支えてきた製造装置や素材,関連技術の産業のサプライチェーンの強じん化のためにも必須である.
現在,集積回路技術は,大きな変革のときを迎えようとしている.これまで半導体微細加工技術の進展がもたらしていた加工寸法の縮小による粛々とした性能の向上とコストの低減は,技術的な難度が高まり徐々にその効果を発揮しにくくなっており,この方向での半導体集積回路の性能向上は,あと数世代で終わるとの見方も出始めている.これまでとは全く異なる新たな性能向上の方法が模索され始めている.こうした状況から,微細化の競争では後塵を拝している我が国も,これまでの延長線上ではない半導体集積回路を世界に先駆けて開発できれば,この分野でゲームチェンジを起こして“次”の勝負に勝つ可能性がある.その核となるのは,アカデミアが有する優れた研究開発力と人材育成力の基盤である.
現在,先端半導体開発に関する研究・教育が世界的に進行している.一方半導体に関する世界のもう一つの動きとして,自社のシステムに特化した半導体の独自開発が行われている.今後は,先端半導体開発と製造を中心とする従来型の研究開発に追加して,半導体を用いた社会変革,すなわち半導体による価値創造を実現するための半導体開発が世界の潮流となると言える.このような世界の潮流を先導するためには,半導体・集積回路の材料,設計,製造のスペシャリストであると同時に,社会のニーズや,社会変革に求められる半導体・集積回路を理解し,それを半導体・集積回路の設計・製造に反映できる人材の育成が不可欠かつ,急務である.
九州地域においては,経済産業省九州経済産業局を中心に産業界,教育機関,行政機関等で構成する「九州半導体人材育成等コンソーシアム」を設立し,半導体人材の育成・確保やサプライチェーンの強じん化等を図り,「新生・シリコンアイランド九州」の実現に向けた取組みを強力に推進している.
九州大学では,大学の持つ総合知を結集し,人社系を含む9部局の教員数で構成する「価値創造型半導体人材育成センター」を2023年6月に新設した.電気電子系の学生に対し,半導体・集積回路の材料,設計,製造のスペシャリストであると同時に,社会のニーズや,社会変革に求められる半導体・集積回路を理解し,それを半導体・集積回路の設計・製造に反映できる人材,すなわち,①社会変革を起こす次の半導体技術を担う人材「価値創造型半導体スペシャリスト」を育成する.同時に他学府・他学部の学生については,半導体・集積回路の基本知識を持ち,社会のニーズに接し,社会変革を計画し,それを実行する価値創造型人材,すなわち②半導体の社会実装を通じた社会変革を担う人材を育成する.半導体の基礎知識を有する人材は,行政や金融,サービスの分野において最も必要とされているが,現状教育が行われていない.更に九州の各大学の学生や半導体製造及び関連分野の企業の技術者に対して,半導体産業基盤を強じん化できる価値創造型人材,すなわち③半導体の国内製造を担う人材を育成する.そのため「ビジネス×半導体」,「社会実装×半導体」,「持続可能×半導体」等の視点から半導体の価値を創出するための新しい講義を立ち上げた.また,九州大学ビジネス・スクールや九州大学ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センターとの共同講義,更に世界最先端の半導体企業から講師陣を招へいし半導体の設計,製造,三次元実装に関する講義も開始した.講義修了者に対しては修了証を授与し半導体人材の質を保証する.以上を通して,「半導体で何をすべきか」という視点を持つ九州大学発「価値創造型半導体スペシャリスト」育成・研究組織を九州地域から全国,更には世界展開し,輩出した人材がゲームチェンジをけん引することを期待している.
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