EiC 電子情報通信学会のグローバル化の戦略と多言語プラットホーム

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Vol.107 No.12 (2024/12) 目次へ

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電子情報通信学会のグローバル化の戦略と多言語プラットホーム

多言語プラットフォームアドホック
 山中直明 石川悦子 藤島 実 浅井光太郎

1.は じ め に

 IT技術はその視野を広げ,ほとんどの分野で必要不可欠な技術となっている.日本最大級のITネットワーク学会として,電子情報通信学会の重要性が増していることは間違いない.最近の傾向として,日本は技術立国であるにもかかわらず,全産業労働人口に占めるIT技術者の数は多くないが,それでも図1に示すように技術者の数は驚異的な勢いで増加している.人手不足が深刻なため,文系の学生をエンジニアとして活用したり,インドなどからの外国人労働者の受入れも増えている.

図1 国内のITエンジニアの遷移(経済産業省「IT人材を巡る現状について(データ編)」からhttps://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/joho_keizai/it_jinzai/001.html)

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/joho_keizai/it_jinzai/001.html

 このように社会のニーズに即応できないのは,大学の定員が学校設置基準で決められており,容易に変更できないことに原因があるようだ.それだけでなく,大学ランキングや研究者個人の国際的評価も低下傾向にあり,技術者の供給増とともに,日本のグローバル戦略や国際競争力向上策は待ったなしである.筆者はこれを再グローバル化と呼びたい.多くの場所で,グローバル化を見直し,強化しようとする動きがある.例えば,筆者もメンバーである科学技術振興機構(JST)のASPIREプログラムは,世界のトップネットワークにおける日本のプレゼンスを高め,日本のグローバル化を真に推進するプログラムである.このプログラムは,研究者一人当り年間1億円という多額の研究予算を持つ背水の陣の取組みである(1)

 一方,電子情報通信学会そのものを見てみよう.多くの学会がそうであるように,会員数は3万8,000人前後をピークに減少しているが,日本ではIT関連学会最大手の電子情報通信学会が2万2,000人弱と大きく減少している(近年は減少に歯止めがかかっている).少子化もあるが,それ以上に学会離れ,活動離れが進んでいる現状とも言える(図2).例えば,同図を見ると,世界的に最も重要な活動の一つである英文論文誌への投稿も大きく減少している.もちろん,会員がほかの,よりグローバルなジャーナルに投稿したり,査読に時間のかかるジャーナルからトップクラスの国際学会に勝負の場を移したりしている理由はある.しかし,それが言い訳にならないよう,どのような改善を行うべきかを検討する.

図2 電子情報通信学会の国内会員数と国内会員による英文誌投稿数

 本稿の目的であるグローバル化の観点から詳しく分析すると,図3に示すように,投稿数減の大きな原因の一つは海外会員数であることが分かる.2018年に論文誌を非会員からの投稿にも開放し,より開かれた論文誌を目指した反動もあり,会員である必要性が一つ減り,非会員による投稿数が増えたと考えられる.このような施策を盛り込んだ背景には,海外会員の多くが1~2年の短期間,投稿のためだけに会員になり,すぐに辞めてしまうなど,本来の会員活動から遠ざかっていたこともある.海外会員のために価値を創造してこなかった本会は,反省すべき点が多い.例えば,本会誌は読み物として高い評価を得ている.専門的な記事や解説,更に教養を高める内容など,様々な御意見を頂きながら,スマートフォンへの配信や電子化など,改善を続けている.一方,日本語で書かれており,海外会員にとっては利用価値が低い.海外会員向けには,本会誌の記事を毎月選び,有料で英訳して配布しているが,十分ではない.更に,学会の重要な活動である研究会の技術報告の多くは日本語である.海外会員から見れば,英語で入手できる学会活動は英文論文誌と国際会議のアーカイブの一部だけである.会員数が減少し,少子化も考慮すると,分野の拡大や海外会員への魅力づくりが必要であり,それは日本が抱える問題の縮図でもあると分析する.

図3 電子情報通信学会の海外会員数と英文誌投稿数  海外には韓国,中国を含む.


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