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1200号記念特集
「100年後の情報通信が支える未来予想図」受賞作品紹介
越前さくら(北海道札幌市立札幌開成中等教育学校5年)
大切な人を亡くすという経験は,日常から大きな歯車が欠けてしまうような感覚をもたらす.もう少し言葉を交わしたかったという後悔や,人生の岐路でアドバイスをもらいたいという願いなど,人々が「またあの人と話したい」という考えに至るのは想像にたやすい.
そこで私は「あの人ともう一度話したい」という願いを叶える技術を考えた.スマホに埋め込んだチップによって亡くなった人から擬似的な電話がかかってくる技術,『テレホープ』だ.テレホープの用途は再生する側と録音する側で異なるものの,スマホを主軸にして使用するという共通点がある.電話がかかってくる相手は再生する側によって決めることができ,それは例えば家族や恩師だったり,もしくは大好きなミュージシャンだったりするかもしれない.
まず録音する側の手順は(1)~(3)となっている.(1)テレホープに自分の声を五十音順に録音する.ここで録音された五十音をもとにその人の声の特徴を捉え,テレホープがその人の声を再現する(現在の合成音声技術を応用).(2)テレホープを自身のスマホや携帯電話に埋め込み,情報取得機能をオンにする.メッセージアプリでの口調をデータ化してその人の口調を再現したり,生前のその人の行動を読み取るためだ(CookieなどのWebサイト追跡技術を応用).(3)埋め込んでいたテレホープを取り外し,電話をかけたい相手にチップを渡す.アナログ的なデータの受け渡し方だが,渡す予定でなかった人にデータを盗られるリスクを回避する目的がある.このようにテレホープには生成された音声や口調を再現したデータが保存されているため,その人がしそうな会話を人工知能を用いて予想することが可能だ.
そして再生する側の手順は(1)~(2)となっている.(1)受け取ったテレホープをスマホに埋め込み,専用アプリで位置情報機能や合成音声機能をオンにする.これによって自分がいる位置をアプリが自動で読み取り,また話したい相手の合成音声をテレホープ内で再生する準備ができる.(2)普通に街を出歩いていると,自分がいる位置(コンビニだったら「実はあのホットスナックが好きだったんだ」など)に応じて相手から電話がかかってくるようになる.人工知能によって相手が言いそうな事を話すため,悩み事に関して本人に近いアドバイスをしてくれるのだ.
テレホープには二つの意味がある.一つは「電話をかける」という意味でテレフォン,もう一つは「会話したい」という願いを叶える意味でのホープだ.もし100年後にこの技術が実現したら,賛否両論あることだろう.死者を(音声のみとは言え)生き返らせるような真似に抵抗感を抱く人は少なからず存在するからだ.しかし大切な人を亡くした誰かの心痛を癒すためなら,私はこの技術は実現されるべきだと考えた.
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