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昨今世界では半導体技術の競争が激化しており国家安全保障の中核であることが指摘され始め,日本政府もようやく遅ればせながら重い腰を上げ半導体産業への投資を急激に加速させてきている.その中核戦略は台湾半導体企業の誘致である.世界一の半導体立国台湾と連携するのは正解であるが,その経済的効果だけに視点が行っているように思う.かつて世界を凌駕した日本半導体がどうしてここまでひどい状況に陥ったかという総括もなく,ただただ資金を投入すれば最先端半導体が数年で作れるという論調には,不安を感じざるを得ない.私としてはいてもたってもいられず,現実の状況をお知らせするとともに地道で長期的な戦略も策定頂きたく筆を執らせて頂いた.
台湾半導体も台湾積体電路製造(TSMC: Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.)も一日にして成らず,60年以上にわたるオリジナルな半導体技術に向けて戦略的で地道な技術蓄積と継続的な高度人材育成の賜物だからである.
私は2000年までの19年間,日本電気株式会社で半導体デバイスの量産から研究開発に従事した経験がある.そのとき,身をもって世界一だった日本半導体の凋落を体験してきた.その後,東北大学で22年間半導体研究を行い,現在は台湾における半導体研究の中心である國立陽明交通大学で教育研究に当たっている.その特異な経歴から,日本と台湾の半導体ビジネスモデルの在り方に大きな違いがあることが理解できたと思っている.新竹サイエンスパークを中核とした台湾の半導体ビジネスモデルを知って頂くことで日本における半導体復活の一助になればと思っている.
サプライチェーンという言葉が使われるようになって久しいが,日本における報道などを聞いているとその意味を深く理解している人がいるのだろうか?と首をかしげたくなる.
半導体工場を作れば半導体デバイスが作れると思ったら,それは大きな勘違いである.半導体工場に半導体を作るための材料,化学薬品,純水,各種製造装置,各種ガス,排ガス処理機器,排水処理機器,デバイス特性測定機器,各種分析機器,クリンルーム機器,空調機器,電機機器,等その半導体デバイス工場の周辺にそのデバイスを作るために必要不可欠なものを供給できる企業群(あるいは企業網)がないと製造することができない.また,人材供給やイノベーションの起点となる大学や国立研究所,更には半導体が使われる最終製品企業網も不可欠である.これをいわゆる半導体サプライチェーン(図1)と言う.つまり,更地に半導体デバイス製造工場を作り,超高額な半導体製造設備を導入するだけでは半導体は作れないしビジネスも成り立たない.そこには何千点に及ぶ半導体材料や部品あるいはそのメンテナンス,そして最も重要な半導体製造技術や供給における高度人材育成(特に博士)が必要不可欠である.技術は人であり,それらの全ては何十年以上にわたる人材育成に基づいた技術蓄積によって形成されるものなのである.
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