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本会選奨規程第29条(電子工学及び情報通信並びに関連分野における教育実践(学会,教育機関,企業等での教育の実践)において顕著な成果を挙げ,当該分野の教育の発展に寄与した個人)に基づき,下記の3名を選び贈呈した.
電磁気学理論およびその応用技術の啓発に対する貢献
宇野 亨君は,1985年に東北大学大学院博士後期課程を修了し,東北大学助手,同助教授を経て,1998年から東京農工大学工学部教授に就任しました.また,1998~1999年には米国ペンシルベニア州立大学において客員研究員を務めました.
同君は,電磁気学,電磁波工学,及びアンテナ工学を専門としています.特に自身の電磁気学に関する知識をベースとし,その応用である電波及びアンテナ問題に対して有用な数値解析手法の開発を進めました.
自身の知識やノウハウを後進研究者に広く伝えるため,アンテナ・伝播研究専門委員会主催のワークショップを1996年に2回と2011年に2回開催し,多くの教育的ニーズに答えてきました.2016年に「数値電磁界解析のためのFDTD法―基礎と実践―」を出版し,電磁気学理論の啓発活動で多大な成果を上げています.本教科書は,多くの論文で引用されるなど,国内の電磁波を扱うほぼ全ての研究者が参照する「バイブル」となっており,電磁気学理論の啓発に極めて大きな貢献をしています.本書では光,テラヘルツ,電波伝搬,回路解析など多くの電磁気現象を解析できるように工夫されており,様々な分野の研究者/技術者への教育効果は計り知れず,これらの活動により育成された多くの研究者/技術者は,学術及び産業界で広く活躍しています.
更に,メタマテリアルと呼ばれる自然界に存在しない電気特性を示す構造に関する研究の発展にも貢献しており,電磁気学の知識を基に,多くの成果を上げています.その集大成として,2021年に「メタマテリアルアンテナの基礎」を出版し,アンテナ分野へのメタマテリアル応用を啓発する成果を上げています.今後この教科書を参考にすることで新しい製品や技術が広く開発されることが期待でき,幅広く社会に向けて貢献することが考えられます.
また,関連して多くの和英文誌招待論文の執筆や,書籍の出版に精力的に取り組み,継続的に電磁気学の啓発活動を進めています.以上から,同君の電磁気学理論及びその応用技術の啓発に対する貢献は本会の教育優秀賞を受賞するにふさわしいと考えここに推薦します.
技術者倫理・情報倫理教育の新方法論の提案および実践
中西通雄君は教育工学を専門とし,特に長年情報科学教育・技術者倫理教育に力を入れてきました.三菱電機株式会社を経て,大阪大学,大阪工業大学,放送大学,追手門学院大学で教育・研究活動に携わっています.1995年に大阪大学から博士号を授与されました.
同君は,技術者倫理・情報倫理に関わる多面的問題について,受講者が主体的に考え取り組めるよう,新しい方法論を活用する技術者倫理・情報倫理教育を実践してきました.2013年からは受講者が多面的に問題を捉え,主体的に考察できるよう技術者倫理教育にワールドカフェ方式の討論を取り入れました.ワールドカフェ方式の討論は課題の多面性に気づき,議論で得た知見を多くの参加者に伝えられることから,広く協働学習・参加型学習に活用されます.ワールドカフェ方式による技術者倫理教育は,本稿執筆時国内では同君以外の学会報告・論文が見つかりません.大阪大学大学院情報科学研究科の授業では毎年度約80名が受講し,社会人学生も交え実質的でオープンな議論が行われています.
また,映像による技術者倫理・情報倫理教育にも早くから取り組み,多数の情報倫理教育研究者らとともに情報倫理デジタルビデオ小品集を継続発行しています.消費者視点に立つ技術者倫理・情報倫理教育の研究プロジェクト(科研費基盤(C)15K00996)では,アニメキャラクタに親しむ世代向けにVTuber教員による講義プログラムを開発しました.
ワールドカフェ方式の討論で多数の受講者に主体的かつ多面的に技術者倫理を考える機会を提供してきたこと,及び時代に即した新しい教育開発を進め,ユニークな技術者倫理・情報倫理教育の開発に努めてきた業績は教育優秀賞にふさわしいものと確信し,推薦します.
AI活用人材の育成のための教育プログラム開発と普及
巳波弘佳君は,1992年東京大学理学部数学科を卒業し,日本電信電話株式会社に入社し,研究所に所属となりました.以来,情報通信ネットワークの数理科学面からの研究開発に従事し,2002年関西学院大学に転じられました.現在,同大学工学部情報工学課程教授,副学長,情報化推進機構長,AI活用人材育成プログラム統括であります.大学では,離散数学や最適化アルゴリズムとその応用に関して理論と実践から教育・研究を行っています.
近年のAI(人工知能)を中心とする技術革新により,世界はAI技術による歴史的な転換期を迎えています.いま,そしてこれからの社会で求められるのは,文系・理系関係なく,AIやデータサイエンス,それに関連する技術を理解して活用できる人材であり,そのような人材を育成する教育プログラムが必要不可欠であります.同君は,所属大学において,数年余り前からAI活用人材育成プログラムの開発を先頭になって取り組み,2019年度から所属大学にて「AI活用人材育成プログラム」を開講されました.また学内だけでなく学外にも広く提供されることにより,これまで多くのAI活用人材を輩出してこられました.
本プログラムに関する社会の関心は大変高く,同君は刊行物や研究会での発表以外にも,企業,教育機関,自治体等から依頼を受けて極めて多数の講演を行い,AI活用人材育成の啓発活動を精力的に実施されています.
本プログラムの成果は,100社以上の多様な業界の企業や他大学において,費用対効果の観点も含めて各組織での厳しいチェックにより高く評価されて導入されており,既に大きな波及効果をもたらしています.
以上,同君が中心となって推進してきたAI活用人材育成プログラムの開発・導入,実績,啓発活動は極めて卓越したものであります.本会会員がこのような実効的で影響力の大きい活動を推進していることは,本会としても名誉あることであり,本会の教育優秀賞を受賞するにふさわしいと確信し,推薦します.
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