末松安晴賞贈呈

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Vol.107 No.7 (2024/7) 目次へ

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2023年度 第10回 末松安晴賞贈呈(写真:敬称略)

 本会選奨規程第20条(電子情報通信分野において,学術,技術,標準化などにおいて特に顕著な貢献が認められ,今後の進歩・発展が期待される)に基づき,下記の2件を選び贈呈した.

学術界貢献

無線通信システムにおけるリソースの管理と最適化および6Gへの展開

受賞者 太田 香

 太田 香君は日本を代表する若手・女性研究者である.同君は,2006年に会津大学コンピュータ理工学部を卒業,2008年にOklahoma State University(USA)にてMaster of Science(Computer Science)を取得,2010年にVisiting ScholarとしてUniversity of Waterloo(Canada)に滞在,2012年に会津大学コンピュータ理工学研究科コンピュータ・情報システム学専攻博士後期課程を修了という極めてグローバルな経歴を持つ研究者である.2013年に室蘭工業大学に助教として着任,2022年7月に同大学女性教員としては歴代最年少で教授に就任し,現在に至っている.

 同君は,次世代通信規格「6G」の実現に向け,特殊な電波反射板(RIS)技術を中心に,現行通信システムの制約に挑む研究に注力しており,Society5.0の実現を阻む重要な課題に対して,IoT基盤技術の研究を基礎と応用の両面から幅広く行ってきた.IoT基盤技術の重要性を認識し,処理分散技術や省エネ技術の研究に尽力してきた同君の成果は顕著であり,2023年には文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞し,同君が提案したミリ波帯RISに関する研究は,2021年にJSTさきがけに採択され,屋内通信環境において通信効率を向上させる画期的な技術として注目,高い評価を受けている.

 同君の研究は国際的な学術誌に多数掲載され,これまで1万3,600回以上引用,2019年,2021年,2022年におけるクラリベイト・アナリティクスの高被引用論文著者に三度選定されており,通信技術の最先端においても優れた成果を上げている.クラウドベースで処理されるAIタスクにおける通信遅延に着目し,エッジコンピューティングを活用した分散処理技術を開発し,国際的な学術誌であるIEEE Networkに発表された論文は高い引用数を誇っている.特に注目すべきは,2024年3月時点でGoogle Scholarにおける引用数が1,600に達していることである.

 論文の成果に加えて,医工学連携などの共同研究にも積極的に取り組み,室蘭工業大学コンピュータ科学センターを設立し,センター長として活動するなど,地域社会の課題解決に貢献している.

 以上のとおり,同君の研究は,次世代通信の発展に大きなインパクトを与えるものであり,その成果は学術的のみならず産業や社会にも大きな貢献をしていることを付け加えたい.本賞の名前でもある末松安晴先生は,多くの方が知っている単一モード半導体の発明者で今の光通信の礎をお創りになった先生であり分野領域のリーダであられた.その先生の名前,本会末松安晴賞に最もふさわしい同君は,末松先生のように分野領域をけん引する人物でもある.

区切


産業界貢献

移動通信システムの無線リソース管理機能及びオープンRANインターフェースプロトコルの標準化

受賞者 手島邦彦

 手島邦彦君は,第3世代以降の携帯電話システムの国際標準仕様作成を担う3GPP(3rd Generation Partnership Project)を中心に,第4世代(4G,LTE及びLTE-Advanced)及び第5世代(5G,NR)の移動通信システムの無線リソース管理機能の標準仕様策定に従事し,社会基盤として必要不可欠なものとなった4G移動通信システムや産業界に更なる恩恵をもたらすと期待される5G移動通信システムの発展・実用化に多大な貢献を行ってきた.

 同君は,3GPPの標準仕様策定のため数多くの技術提案を行うとともに,標準必須特許の発明も行ってきた.特に,異なる基地局間の周波数を束ねて利用する技術(デュアルコネクティビティ)により,LTE-Advancedや5Gネットワークにおける高トラヒックエリアでの基地局高密度化の促進や移動端末の高性能化に寄与してきた.また,3GPPの作業部会では,世界各国の通信事業者やグローバルベンダの参加者を代表して取りまとめ役(ラポータ)にも指名され,リーダーシップを発揮し,新幹線のように高速移動環境下での移動端末の送受信性能の改善に寄与する標準仕様の策定を実現した.

 更に,同君は,O-RAN ALLIANCEにおいても作業部会の共同議長やスペックエディタも務め,異なるベンダが提供するCU(Central Unit)装置とDU(Distributed Unit)装置や,DU装置とRU(Radio Unit)装置を相互接続可能とする技術仕様の策定に加え,当該仕様に準拠した装置であることを確認するテスト規定や,当該装置間の相互接続性を保証するテスト規定の策定もけん引してきた.これらの活動を通じ,よりオープンでインテリジェントな無線アクセスネットワークの産業界への早期普及に大きく寄与した.

 以上,同君が担ってきた一連の標準化活動は,携帯電話システムの発展・実用化に欠かせないものばかりであり,産業界への貢献は極めて大きいと言える.今後の更なる活躍に期待する.

区切


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