巻頭言 新たなコミュニティとの関わりについて

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Vol.107 No.7 (2024/7) 目次へ

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巻頭言

新たなコミュニティとの関わりについて Relationship with a New Community副会長 中村 元

 近年,スタートアップ企業が,独自技術を核に限られた時間とリソースで急速な事業成長を目指す一方で,中長期的な視点で研究活動の必要性を認識し,自らのリソースを投じて研究機関を立ち上げるケースが出始めています.また,大企業が,歴史と実績のある研究機関を保有しつつも,新たなスタイルで研究を行う機関を設立するケースも現れています.スタートアップや大企業に関わることなく,電子情報通信分野に限らず,こうした新設の研究機関は,従来の研究スタイルを尊重しながらも,新たな独自の研究スタイルを確立しつつあるように見受けられます.例えば,研究成果を論文にまとめて学会で発表することを基本としているだけではないスタイルです.こうした研究機関が求める学会の役割や機能はどのようなものであり,こうした機関の研究者はどのようなコミュニティに属していくのでしょうか.

 本会において,新たなコミュニティからの参加を期待した各種施策が進められています.エンジニアリング領域の企業技術者へのアプローチもその一つです.情報通信インフラの建設工事から保守運用まで,最前線の現場で日々情報通信産業を守り続けてきた企業の技術者との関わりを求めています.これまで,こうしたエンジニアリング領域の技術者は,研究や学会の活動は縁遠いものと感じ,直接的な関わりを持つ機会が少なかったかと思います.こうした技術者へのアプローチが始まり,2024年電子情報通信学会総合大会では「社会インフラをささえる情報通信エンジニアリングを目指して」という大会委員会特別企画セッションが開催されました.これは,エンジニアリング領域の技術者が求める学会の役割や機能を探るとともに,その要望に応えるための第一歩であり,今後,このコミュニティの本会への参加に通じるものと期待します.

 また,海外会員の獲得に向けて様々な取組みが行われていますが,その一環として,諸外国の各地域における現地コミュニティの活動を尊重した施策も進められています.例えば,各地域の研究活動を支援する手段として,現地の使用言語で論文の投稿や閲覧ができる多言語翻訳システムを開発導入しています.13か国語に対応し,各地域でこれまで育まれてきた現地言語での活動を維持発展させつつ,グローバルな視点で情報の発信や収集を容易にするための支援策です.また,各地域の代表者や研究者を総合大会やソサイエティ大会に招いて相互交流を図るイベントも開催しています.こうしたグローバル化施策は,様々な地域に存在する現地コミュニティに対して,新たな接点を探りながら本会との関わりを深めるべく推進されています.

 エンジニアリング領域や海外地域に対する働きかけは,本会がこれまでに関わりを持ちにくかった技術者へのアプローチであり,彼らが所属するコミュニティを通じて,学会に求める機能や役割を理解することから始めています.そうした活動を通じて得られた理解を基に,必要に応じて本会が変わることで要望に応え,新たなコミュニティからの参加が実現していくものと考えます.もちろん,本会の歴史の中で築かれてきた守るべき姿は維持する必要がありますが,こうしたコミュニティを尊重する考え方は,他学会や企業との連携強化など,多くの場面で求められ,その都度,本会の変革に関して検討が行われることになります.今後,そうした検討の中での判断はますます難しくなりますが,研究や学術活動のスタイルが変化していく時代において,学会の普遍的なニーズや効用を探り,そのための変革に向けた仕組みを見いだしていくことは極めて重要と考えます.


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