小特集 4. 量子コンピューティングを用いる微分方程式の解法について

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量子コンピュータにおける回路とシステム

小特集 4.

量子コンピューティングを用いる微分方程式の解法について

On Solving Differential Equations Using Quantum Computing

岡崎秀晃

岡崎秀晃 正員:シニア会員 湘南工科大学情報学部情報学科

Hideaki OKAZAKI, Senior Member (Faculty of Informatics, Shonan Institute of Technology, Fujisawa-shi, 251-8511 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.9 pp.866-872 2024年9月

©2024 電子情報通信学会

Abstract

 本稿では,連続関数は区分的線形関数によって,任意の精度で包囲できることから,非同次の区分線形微分方程式の解を用いて,一般の非線形微分方程式の解を任意の精度で包囲して求められることに注目し,量子コンピューティングによる時間に依存しない非同次線形微分方程式の解法について議論する.線形微分方程式の行列が実・共役複索数の固有値を持つ場合に実・共役複索数の固有値,実・共役複索数の固有値ベクトルを用いた解法と量子コンピューティングのための区分線形関数の近似方法についても紹介する.

キーワード:量子コンピューティング,連続関数の区分的線形関数包囲,非同次線形微分方程式の解法,区分線形関数の近似方法,実・共役複系数の固有値と固有ベクトル

1.は じ め に

 量子コンピュータを開発する動機の一つに,シュレーディンガー方程式,ハミルトニアン・ダイナミクス:math,(math:反エルミート行列,math:エルミート行列,または,ハミルトニアン,math)の微分方程式を効率的に解く(シミュレートする)ことがあった.微分方程式を解くための量子アルゴリズムは,文献(1)の非線形微分方程式の初期の研究に始まり,幾つかの論文で考案されている.文献(2)では,通常の理工学でよく現れる,一般的な非同次線形微分方程式:mathを高次の方法を用いて解く量子アルゴリズムが示されている.また,文献(3)では,切り捨てテイラー級数を用いることで,解の誤差依存性が指数関数的に改善されている.そして,一般的な行列mathは,エルミート行列と反エルミート行列の和:math,(math:エルミート行列,math:反エルミート行列)のように分解できることから,エルミート行列と反エルミート行列の部分でそれぞれ,時間発展させたものをLie-Trotter公式を用いて統合して解を求める方法なども示唆されている.しかしながら,mathが共役複素数の固有値を持つ場合などのmathに対する量子アルゴリズムを用いた解法の研究は十分になされていない.一般的な非線形微分方程式:mathの右辺の一般的な非線形の連続関数mathは,文献(4)の方法で区分的線形関数によって,任意の精度で包囲できることから,非同次の区分線形微分方程式の解を用いてmathの解を任意の精度で包囲して求めることができることに注目して,本稿では,量子コンピューティングによる時間に依存しない非同次線形微分方程式の解法について議論する.そして,文献(5)での議論に基づきながら,線形微分方程式の行列が実・共役複素数の固有値を持つ場合に実・共役複素数の固有値,実・共役複素数の固有値ベクトルを用いた解法と量子コンピューティングのための区分線形関数の近似方法も紹介し,湘南工科大学量子コンピューティング研究センターの取組みも簡単に紹介させて頂く.


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