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解説
水中音響通信のための無線伝送方式の課題と解決策
Wireless Transmission Technologies for Underwater Acoustic Communications: Challenges and Solutions
A bstract
移動体通信のラストフロンティアと言われる水中通信は,Beyond 5Gでのカバレージ拡張の議論もあり,近年注目が高まりつつある.水中通信において移動を想定すると,音波を用いた水中音響通信(UWAC)が最有力となる.ここで,UWACと陸上における電波による移動体通信(陸上移動体通信)は幾つかの類似点があるが,大きく異なる点も多々存在する.本稿では,陸上移動体通信と対比してUWACの特徴について論じ,UWACの無線伝送方式の課題と解決策について議論する.加えて,筆者が実浅海実験を通じて得た,UWAC特有の伝搬環境の特徴に関しても記載している.
キーワード:水中音響通信,二重選択性伝搬環境,無線伝送方式,アレー合成,リサンプラ
近年,水中通信の実現に関する検討が活発化してきている.水中通信の活用先としては,科学研究,地形計測,資源探索等が挙げられる.更に,水中通信は,Beyond 5Gのカバレージ拡張のターゲットの一つとしても注目が高まりつつある.水中通信の実現に関しては,電波,光,音が候補となるが,ある程度の通信距離を確保し,移動環境を想定すると,音波による水中音響通信(以降,UWACと略)がほぼ唯一の候補となる.以上を受け,近年多くの解説文献が発刊されている(1)~(9).
移動体通信は,陸上における電波による移動体通信(以降,陸上移動体通信と略)において,飛躍的な発展を遂げた.移動体通信では,ドップラーシフト広がりと遅延時間広がりが大きい伝搬環境,すなわち,3.で述べる二重選択性伝搬環境(用語),(10)~(12)が性能を左右する.UWACでは二重選択性の克服が大きな課題であることもあり,陸上移動体通信と同じ範ちゅうで語られることも多い.しかし,UWACは陸上移動体通信と類似点もあるが,大きく相違する点も数多く存在する.本稿では,陸上移動体通信との比較という視点も加味しつつ,UWACの特徴,課題,解決策の順序で議論する.加えて,筆者がUWACの実海洋環境実験を通じて得た,陸上移動体通信の視点から見たUWAC特有の伝搬環境の特徴に関しても付記する.
筆者は本稿に先立って,文献(6)でUWACについて論じており,本稿ではUWACの基本部分を除いて,可能な限り重複を避けるようにしている.それゆえ,本稿を読む前に,文献(6)を一読頂けるとありがたい.また,本稿では,文献(11)と同様,は時間,は周波数を示すものとし,は遅延時間,はドップラーシフトを示すものとしている.文献(6)では,ドップラーシフトはやとを用いて記載しているので,本稿ではと読み替える必要がある.
陸上移動体通信から見たUWACの大きな特徴としては,次の3点が挙げられる.
①伝搬速度である水中の音速は光速の20万分の1
②使用可能な周波数はせいぜい1MHz以下
③伝搬環境が陸上移動体通信と大きく相違
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