解説 水中音響通信のための無線伝送方式の課題と解決策

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.107 No.9 (2024/9) 目次へ

前の記事へ次の記事へ


 解説 

水中音響通信のための無線伝送方式の課題と解決策

Wireless Transmission Technologies for Underwater Acoustic Communications: Challenges and Solutions

久保博嗣

久保博嗣 正員:シニア会員 立命館大学理工学部電子情報工学科

Hiroshi KUBO, Senior Member (Faculty of Science and Engineering, Ritsumeikan University, Kusatsu-shi, 525-8577 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.107 No.9 pp.875-883 2024年9月

©2024 電子情報通信学会

A bstract

 移動体通信のラストフロンティアと言われる水中通信は,Beyond 5Gでのカバレージ拡張の議論もあり,近年注目が高まりつつある.水中通信において移動を想定すると,音波を用いた水中音響通信(UWAC)が最有力となる.ここで,UWACと陸上における電波による移動体通信(陸上移動体通信)は幾つかの類似点があるが,大きく異なる点も多々存在する.本稿では,陸上移動体通信と対比してUWACの特徴について論じ,UWACの無線伝送方式の課題と解決策について議論する.加えて,筆者が実浅海実験を通じて得た,UWAC特有の伝搬環境の特徴に関しても記載している.

キーワード:水中音響通信,二重選択性伝搬環境,無線伝送方式,アレー合成,リサンプラ

1.ま え が き

 近年,水中通信の実現に関する検討が活発化してきている.水中通信の活用先としては,科学研究,地形計測,資源探索等が挙げられる.更に,水中通信は,Beyond 5Gのカバレージ拡張のターゲットの一つとしても注目が高まりつつある.水中通信の実現に関しては,電波,光,音が候補となるが,ある程度の通信距離を確保し,移動環境を想定すると,音波による水中音響通信(以降,UWACと略)がほぼ唯一の候補となる.以上を受け,近年多くの解説文献が発刊されている(1)(9)

 移動体通信は,陸上における電波による移動体通信(以降,陸上移動体通信と略)において,飛躍的な発展を遂げた.移動体通信では,ドップラーシフト広がりと遅延時間広がりが大きい伝搬環境,すなわち,3.で述べる二重選択性伝搬環境(用語),(10)(12)が性能を左右する.UWACでは二重選択性の克服が大きな課題であることもあり,陸上移動体通信と同じ範ちゅうで語られることも多い.しかし,UWACは陸上移動体通信と類似点もあるが,大きく相違する点も数多く存在する.本稿では,陸上移動体通信との比較という視点も加味しつつ,UWACの特徴,課題,解決策の順序で議論する.加えて,筆者がUWACの実海洋環境実験を通じて得た,陸上移動体通信の視点から見たUWAC特有の伝搬環境の特徴に関しても付記する.

 筆者は本稿に先立って,文献(6)でUWACについて論じており,本稿ではUWACの基本部分を除いて,可能な限り重複を避けるようにしている.それゆえ,本稿を読む前に,文献(6)を一読頂けるとありがたい.また,本稿では,文献(11)と同様,mathは時間,mathは周波数を示すものとし,mathは遅延時間,mathはドップラーシフトを示すものとしている.文献(6)では,ドップラーシフトはmathmathmathを用いて記載しているので,本稿ではmathと読み替える必要がある.

2.陸上移動体通信から見たUWACの特徴

 陸上移動体通信から見たUWACの大きな特徴としては,次の3点が挙げられる.

伝搬速度である水中の音速は光速の20万分の1

使用可能な周波数はせいぜい1MHz以下

伝搬環境が陸上移動体通信と大きく相違


続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。