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解説
技術者のアメリカにおける採用事情とキャリア開発
Hiring Process in the US and Career Development as an Engineer
A bstract
技術者が活躍する場は日本国内に限らず世界中に存在する.本稿では,筆者の過去約30年の日本及び多国籍企業での経験を基に,キャリア開発を考える場合の重要な視点について国内に限らず国際的な視野から見た場合のアドバイスを含めて述べる.本稿が一人でも多くの国際的技術者が日本から輩出される一助になればと願う.
キーワード:キャリア開発,海外勤務,多国籍企業,就職
本稿では,筆者が社会人として日本及び多国籍企業(注1)での経験を基に,現在居住する北米西海岸での10年の経験を踏まえ,多くの読者が日本在住の方々と仮定して技術者としてのキャリア開発について述べる.
まず筆者の背景からお話させて頂くと,修士課程を日本で修了した後に就職をし,日本において技術者として多様な場面で経験を積んだ.そして,多くの機会において一緒に仕事をする相手は日本に限らず,世界各地の組織(企業,研究所,大学等)であり多くの研究者や技術者と接点を持つことができた.そのような環境の中で,かなり早い時期から技術者として生きるには国境は関係ないのだと実感していた.
ある時期から,国外で仕事をするチャンスを探し始め数年後にそれが実現し,2014年に米国に移住した.以下では私がどのように自分のポジションを国外に見つけたかの経験,そしてその後米国での採用にも携わる機会もあったのでそれらの経験に基づいた内容を述べる.
本題に入る前にもう少し対象となる方々を明確にしておきたい.本稿はこれから社会人として活躍する学生の読者のみならず,既に社会人として活躍されている方々のキャリア形成や採用担当・組織を作っていく方々の指針となればと考える.表題はアメリカにおける採用事情と記したが,ここで述べる環境は徐々に日本でも広まりつつあるため,日本でのキャリア設計にも十分に参考になる内容となる.
以下では,まず日本の採用と私が知る限りの多国籍企業での採用のプロセスの差を示した後に,多様化する社会のニーズ,市場,技術,そして環境に対応するキャリア設計の視点で私の考えを一例として示したい.
最初から脇道にそれるが,日本は御存じのとおり,「受験」と呼ばれる仕組みが教育制度の重要な要素として長年日本社会に組み込まれ,それが社会のいろいろな場所に影響を及ぼしている.過去にある大学の先生と対談をする機会がありそのときにその先生が非常に興味深いことを指摘されていた.それは,日本の「受験制度」,すなわち入学者選抜試験制度は,試験後に数日から1週間程度で合格者を発表するスケジュールのため,出題される問題は,数日間で採点が可能な選択肢問題が多く出題される傾向がある.その結果,多くの学校では,大学入試であれば高校,高校入試であれば中学校でその試験に対応した内容を中心に教える.その影響として,答えを選択することは得意だが,論理的思考を必要とする問題に対応できる能力や経験を持つ学生が少なくなる傾向がある.これは入学者選抜試験制度自体に問題があり,その先生の大学では,筆記試験での合格者よりも,その他の要素を十分な時間をかけて評価し,更に面接を経る入試方法(いわゆるAdmission Office入学制度)の入学者割当を多くしており,それがうまく機能しているとお話されていた.実は,この入試制度が少なからず日本の採用制度にも影響があると私は感じている.まず,産業界がスケジュールをそろえて新卒採用を行うという現象は日本でしか聞いたことがなく,少なくとも米国にはそのような仕組みは存在しない.一括の新卒採用の弊害は,同業他社が横並びで試験,面接を行い新規採用候補者を選ぶもので,これが大学入試にも似た限られた要素のみでの評価で採用につながっていると感じている.更にこの仕組みでは卒業年次の学生は次の4月にしか就職ができないという,これまた型にはまった制度となってしまっている.これは私が日本にいた時期に経験したことに基づく感触なので最近は変わってきている可能性はある.いずれにしてもこのような業界内での足並みをそろえる慣習は欧米では聞いたことがない.日本におられる多くの方は,じゃあ何が違うのか,と問われると思うので簡単に採用の例を以下に記してみたい.
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