巻頭言 多様な場での議論の機会を

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Vol.107 No.9 (2024/9) 目次へ

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巻頭言

多様な場での議論の機会を Recommendation of Active Discussions in Diverse Fields会計理事 平 明徳

 ネットで最新情報が広く取得できる時代の学会の役割について,最近の状況を振り返りつつ改めて考えてみました.

 産業構造や事業モデル変革の必要性が広く言われており,従来から日本が得意であった高品質なもの作りから,サービスやソリューションに付加価値の重心が移りつつあります.本会の専門領域であるICT分野においても日本のサービス事業は決して強いとは言えず,SNSやクラウドサービスはGAFAM(Google, Apple, Facebook=Meta, Amazon, Microsoft)に代表される米国勢が支配的です.昨今の円安要因にもひも付けられて,ディジタル赤字の拡大が危惧されているところでもあります.

 時代とともに市場環境が変わり,事業モデルの変革が求められるのは昔から変わりません.ICT分野では特に急速に高性能なコモディティ商品の開発が進められたため,従来の延長線上にあるハードウェアの高性能化にこだわると,短期間にレッドオーシャンでの戦いを強いられることになります.昨今,次世代の移動通信規格である6Gの議論が始まっていますが,6Gシステムに求める評価指標としてKVI(Key Value Indicator)が提唱されています.5G開発で主に用いられた,伝送速度や遅延時間といったKPI(Key Performance Indicator)に対し,KVIはSDGsに示されるような社会課題解決にいかに貢献するかという指標に相当します.社会が求める付加価値(Value)が,ハードウェアとしての性能から,ソリューションに変わりつつあることを示す端的な例として,印象深いものがあります.

 従来からの延長線上にない,新しい付加価値を示すにはどうすればよいでしょうか.何が重要な課題で,どうやって解決するのか,広い視点で考えなくてはなりません.複雑な課題になるほど,自分の手持ちのパーツだけで解くのは難しく,広範囲な技術の動向を考慮して「価値」を作り出す必要があります.生成AIでメールや資料だけでなく,イラスト作成やプログラミングまでできてしまう時代になりました.ゴールが決まった作業はAIの比率が高まり,人間の役割は,課題設定や付加価値の創造がより重視されるものと思います.

 このようなときこそ,新しい技術コミュニティに飛び込んで,いろいろな人と議論してみることをお勧めします.多様な視点の方と話すうちに,多くの気付きやきっかけをつかめると思います.私も,長く悩んだ課題に,全く異なる分野の技術が解決のヒントになることを多々経験しました.これまで,専門性をより深めるために学会を活用してきた方は多いと思いますが,横方向へ自分の守備範囲を拡大することにも同じくらい役割を発揮します.幸い,電子情報通信学会は五つのソサイエティと一つのグループの下に多様な研究会を有しており,ICT分野を幅広くカバーしています.新しい「価値」の創造を目指して,今年は新たな研究会や国際会議で議論を始めてみてはいかがでしょうか.きっと,予想を超えた「気付き」を得ることができると期待します!


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