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メディアアートあるいはメディアアーティストという語は,芸術界隈のみならず,理学や工学,医学の分野における科学研究の副次的な成果や,科学者のB面ともいうべきもう一つの顔としても用いられることがある.ものの本によれば,メディアアートとは「絵画や彫刻といった伝統的な表現形式と異なり,メディアテクノロジーを駆使した新しいタイプの美術作品の総称.」(1)とあり,「ビデオ・アート,コンピュータ・グラフィクス,サウンド・インスタレーション,ライト・アート,ネット・アート」が具体例として記されている.そのため,先端技術そのものを熟知した専門家によって創案されることは何ら不思議ではなく,むしろ伝統的な表現を志向してきた美術作家とは異なる技術の使い方や制作過程を経るような新しい視座を提供する可能性があり,これはアートである/アートではない論争とは無関係に,科学者の芸術への参入は単に歓迎されるべきことだろう.
しかし,メディアアートには「一般的にはあるメディアそのものが作品の制作原理,もしくは作品の素材として用いられている表現を指す.」(2)という定義もあるように,ブラウン管テレビモニタやプログラミング言語のPythonといったものだけでなく,大理石彫刻や洞窟壁画,金工や漆工などあらゆる伝統的な美術もまた,メディアアートという語を敷衍して解釈すればそこに回収することも可能なようだ.
遡れば,ギリシア語の「technē」やラテン語の「ars」に語源を持つ英語の「art」には技術の含意があるとされる.日本が江戸から明治へと移行する時期に,外国語であるフランス語の「beaux-arts」や英語の「fine art」が「精工物」や「精美なる細工物」と訳され(3),ウィーン万国博覧会前年の1972(明治5)年に博覧会出品の分類に「美術」という語が正式に用いられた流れにおいても,技術と美術は元来近しいものであったのだろう(4).日本にとって「美術」は職人の手わざに代表される製作技術を含めて伝えられ,現代に至るまで精巧で細密な造形は日本の専売特許のようなイメージすらある.時間をかけて習得された製作技術に裏打ちされた工芸的要素は,現在では「KOGEI」として日本の美術において不可分な側面として認知されている.
一方で,美術を教育する場で昔からよく耳にしていた言葉がある.
「感心させるな.感動させろ.」
映画「燃えよドラゴン(Enter the Dragon)」(1973年)でブルース・リー(役名:リー)が発した著名なセリフ “Don’t think. feel!”(邦訳「考えるな,感じろ」)のパロディ的な言い回しかもしれないが,つまりは,技術的な新しさや製作難易度の高さ,構造の複雑さ,プログラムの完成度などをこれ見よがしに誇示するのではなく,そのような過程や含意を覆い隠すほどの衝撃(感動)を与える作品を目指せということなのだろう.そして,ふと作品制作の裏側をひも解いてみたときに,そこに垣間見える技術に我々は心引かれるが,普段は秘することを粋とすることが日本独特の文化なのかもしれない.
そのように,伝統的な美術であれ,先端技術を用いたメディアアートであれ,日本の美術は作品とメディアとの関係性が深い表現が多くあるが,いつからか技術は表現というよりも事物の「記録」に特化して用いられるようになっている.文字や紙,更には印刷技術の発明によって事物から取り出した情報をより多くの人に伝えることができるようになり,写真や映像の出現は,事物と情報との差異を極めて曖昧にした.更に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響から,2020年以降から急激に美術展覧会の三次元化,舞台芸術やアートイベント,シンポジウムの生配信,映像視聴が進み,もはや写真や映像という「記録」が事物そのものであるかのように振る舞うほど,誰もがその「記録」を客観的であると了解しているらしい.もはやこの世の全てが博物館化(musealization)(5)されていくことを人類が欲望しているようだ.そして,「作品をアーカイブしておく」「アーカイブを視聴する」という言い回しのように,特にディジタル技術を用いた事物の博物館化=記録こそが「アーカイブ」という語の一般認識になっている.
筆者は以前に,これからのディジタルアーカイブについて,記録だけではない「創造のドライブと併走して残されていく持続可能な」ものとして捉え,創造と記録が分かち難く,当然のように標準装備されていくとした考えを述べた(6).本稿では,美術における創造と記録,その体験,更にそこに用いられるディジタル技術と時間制について,二つの事例を参照しながら考えを進めていきたい.
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