特別小特集 5 分散型アーキテクチャによる創造的な経済空間構築

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特別小特集 5 分散型アーキテクチャによる創造的な経済空間構築 Distributed Architecture for the Creation of a Creative Economy 國領二郎

國領二郎 慶應義塾大学総合政策学部

Jiro KOKURYO, Nonmember (Faculty of Policy Management, Keio University, Fujisawa-shi, 252-0882 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.1 pp.26-30 2025年1月

©2025 電子情報通信学会

1.生 成 AI の 衝 撃

 簡単な指示を与えるだけでどんどんコンテンツを生産してしまう生成AIがコンテンツ産業の構造やそこで働くクリエイターたちの仕事をどのように変化させるのか,行く末が混沌とした状況が生まれている.楽観的なことを言えば,創造の仕事の生産性を上げてより良質のコンテンツを大量に供給することを可能として産業を活性化させることも想定できる.一方で,機械が人間の仕事を奪ったり産業のビジネスモデル(1)を破壊したりすることもあり得るだろう(注1).見えない先行きの中で,すぐにでも対応しなければならない課題にどのような政策をとるべきなのかについても悩みが大きい.

 既に大きな課題になっているのが著作権問題である(2).ここでは少なくとも二つの論点がある.一つは生成AIが活用する他者が作成した作品の権利侵害の問題である.直接的に特定の人物や作品キャラクタの派生をさせているものについてはそれでも律しやすいが,表面的には模倣したと見えないAI作品も多くの作品を読み込んでパターンを学習して創作をしている.どこまでオリジナル作者の権利を認めるかが制度的に課題であるし,制度いかんによって技術に求められる機能も異なってくる.

 第2は生成された作品の財産権を誰が持つかという問題である.AIを操作した人間というのが一番単純な答えとなるのであろうが,そうなるとAIが参照した多くの作品の作者から不満が出そうである.学習した全てのコンテンツの権利者に配分することもあり得る.ただし,それをどのように技術的に実現できるかまだ方法が見えているわけではない.

 これらの問題を見るにつけ,著作権という制度で個々のコンテンツ作品を物財のように見立て,独立した商品として情報を金銭と交換しながら流通させるビジネスモデルが限界に来ているのではないか,というのが本稿の大きな論点となる.替わってコンテンツを創作者自らのコントロール下に置いたまま,アクセス権(利用権)のみを提供するモデルの拡大が見通せる.アクセスしたのは誰であるかを把握しながらより多くの人に楽しんでもらえばもらえるほど自身にも報酬が多く戻るビジネスモデルを考えてみたい.

 國領(2022)は情報技術の発達とともに情報財の持つ工業による物財とは異なる特性が表面化して,工業経済では代表的であった所有権を金銭と交換するモデルに替わってアクセス権を許諾する方式が台頭することを論じた(3),(4).このような認識が重要なのはこれまで情報財を物財のように扱うために何らかの形で(例えば著作権のような形で)人為的に供給に制限をかけ,コンテンツ視聴を希少なものとして扱わなければビジネスモデルが成立してこなかったからである.2.で解説するとおり情報には共有しても減らないなど,物財とは異なる性格があり所有権移転に依拠したビジネスモデルを維持しようとすると技術が進化したときに矛盾が表出しがちだ.

 2022年に関心を集めたWeb3.0と呼ばれる技術群もアクセス権型ビジネスモデルの実現に貢献するものとしてとらえることができる.國領(2023)はWeb3.0を①ID,②データ,③アルゴリズムの三つの分散によって特徴付けられるとし,それが「自己主権(Self-Sovereign)型」のデータ管理を可能とするとした(5),(6).本稿の文脈で特に大きな意味を持つのがデータの分散である.すなわち,データを生み出した主体がデータを自らの手元あるいは自分の管理下にあるストレージで管理をし,そのデータへのアクセス権利をNFT(Non-Fungible Token)と呼ばれる証票を発行して他者に許諾する方式だ.アクセス権移転も所有権移転のような全面的なものではなく,権利の転売時には元の創作者に分配金が入るようなアルゴリズムとすることも可能だ.


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