巻頭言 学問こそが全て

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Vol.108 No.1 (2025/1) 目次へ

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巻頭言

会長 山中直明学問こそが全て Fully Committed to Academic Activity

 明けましておめでとうございます.AIの登場や,SNSによる社会の混乱といった,不安が多い時代に入りました.AIやSNSは,使い方を間違えたら,豊かで幸せであるべき社会を壊しかねないです.昭和のモデルは崩れ,生涯雇用も年功序列の給与も過去の話になりつつあり,学歴に頼ることはもっと難しいかと思います.学生は「社会に出て役に立つ勉強がしたい」と思い,教員は,先端の技術を教えようとするばかりに,不変で本質となるところをおろそかにしてしまっているとも思われます.残念ながら,変化が早く,一生同じことをして暮らすことは,ましてや技術を武器に生活をしている会員の皆様は不可能かと思います.さて,どうしたらいいでしょうか? 福沢諭吉は,学問ノススメの中で,「人 学ばざれば智なし,智なき者は愚人なり」とあり,「されば賢人と愚人との別は学ぶと学ばざるとによりてできるものなり」.賛否ありますが,学問を大切にし,常に学び続けることを勧めています.ここでいう,学びには,単なる数学や物理学ではなく,今の言葉で言うと,高い倫理やリベラルアーツの大切さと,更には,人間関係を深めて,協力して生きていくことの大切さがあります.電子情報通信学会は,IT系の最大級の学会ですので,今直面するITの問題,そして,豊かで幸せな社会を作るために,もう一度教育の大切さが国力としても必要なことについて考えてみたいと思います.

 博士課程に進学する学生の数は,この20年ほとんど先進国唯一増加していません.文部科学省も,博士の奨学金を手厚くして,いまや自分のお金だけで進学する学生はとても少なくなっています.残念ながら,博士を修了した学生と,社会のニーズのかい離は大きく,いくら政府や大学が企業に対して,博士修了者の待遇を向上させろと言っても,社会から見たら,ほんとに必要な高度な技術者が供給されていないという側面もあります.経団連は,的を射た提言を大学にしており,学術面では,高い専門と合わせて総合知を,能力面では高い問題解決能力に加えて,プロジェクト管理やコミュニケーション能力を,資質としては,リーダシップや柔軟性といった能力の向上を求めています.つまり,そのような能力を身に着けるための大学院プログラム見直しが重要で,各大学は,グローバルCOE(Center of Excellence),リーディング大学院といった,文理融合やダブルマスター,海外留学の必須化といった,新しい博士教育を目指し工夫していますが,人材育成ですから,短期間の予算が付いたからではなく,長期的に大学組織を変えることも必要かもしれません.誤解を恐れない言い方をすると,昭和のときのように,教授の趣味のような研究のお手伝いをして,論文を書くという博士ではなく,社会の先導者である博士を大学は育てていますか? と問われています.米国では,IT系の博士の初任給は2,000万円とも3,000万円とも言われ,高騰し人材の奪い合いとなっています.実際,そのぐらい価値のある人材を輩出しています.企業も,「博士は使いにくい」という考え方でいいのでしょうか? 国際競争力は,人材です.それも高度人材と言われており,自ら積極的に(お金を使って)教育を受け,経験を積んだ人材を,いかにエンカレッジして“利用”して会社の成長につなげるか? それを目指すべきです.博士だけの話ではなく,就職してからも毎日成長が必要です.リスキリング,生涯教育,CDPも重要性が上がります.定年まで,いや一生涯学問をやり,勉強し続けるような社会は,いずれ,競争力を高め,豊かで幸せな社会になると思います.電子情報通信学会では,今,9歳から100歳を過ぎた世代を超えた会員が,日々,新しい技術や,違う分野の技術を,お互いに,発表し合い,教え合い,そして個人個人が勉強しています.自分のために,是非学問を続けて下さい.


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