特別小特集 アートと人と情報通信技術――創造から垣間見る未来―― 編集にあたって

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Vol.108 No.1 (2025/1) 目次へ

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特別小特集 アートと人と情報通信技術――創造から垣間見る未来――

編集にあたって

編集チームリーダー 橋本俊和

 本特別小特集では,アートは科学技術と人の関わりが顕在化する最前線であり,そこから人を中心とした科学技術の未来で垣間見れるのではないか?という視点で6名の方に執筆頂いた.記事は大きく三つに分けられると考えている.一つ目は,アートと情報通信技術が互いに影響を与え合う「相互作用」に関するもので,3件の記事から成る.大阪芸術大学の萩田教授による「アート作品を創造するために人間の想像力をかき立てる科学技術の役割」では,若冲やアートサイエンスなどの興味深い事例を通して,アート作品を見る目とアート作品を生みだすために人を拡張するものとしての科学技術が論じられている.桜美林大学の有賀准教授による「イラストレーション×科学がもたらすもの」では,生成AIやグラフィカルアブストラクト等の話題も交え,近年重要度が増してきている科学イラストの現状や展望が示されている.また,(株)サイアメントの瀬尾博士による「医用画像からの3DCG再構成を「超速く」「超きれいに」しただけで何かが変わるのか?」では,二次元を超えて三次元コンピュータグラフィックスや3Dディスプレイの技術とそれらのもたらすインパクトが,医療分野での例を基に紹介されている.どの記事からもアートと科学技術が複雑に絡み合い大きな潮流となっている様を垣間見ることができる.二つ目の観点はデータ化したアートと情報通信技術の融合がもたらすインパクトに関するもので,2件の記事から成る.東京藝術大学の平准教授による「ディジタルとアートと記録と体験と」では,アートをアーカイブすることで,「創造のドライブと併走して残されていく持続可能なもの」が生まれることが具体例を通して述べられている.多くの若者が昭和の時代の雰囲気をアーカイブされたコンテンツで気軽に楽しんでいる現在の状況にも当てはまる大変興味深い考察である.更に,慶應義塾大学の國領教授の「分散型アーキテクチャによる創造的な経済空間構築」では,Web3.0技術等を背景に,アートがコンテンツとして流通し,新たな経済活動を生み出されている現状が論じられている.「物財」と「情報財」との違いに基づいた「所有権」から「アクセス権(利用権)」への変換という大きな視座の転換をもたらす示唆に富んだ記事となっている.三つ目の観点は人とのコミュニケーションに関するものである.静岡大学の竹内教授による「人と人との関係を紡ぐコミュニケーションのデザイン」では,AIと人との関係のデザインを通して人とのコミュニケーションが示されている.アートの本質が人の内面に働き掛け突き動かすことであるならば,コミュニケーションを語ることはアートの本質に迫ることにほかならず,人と情報通信技術の将来を展望するのにふさわしい記事となっている.

 以上のとおり,これまで別の文脈で語られることの多かったアートと情報通信技術を結び付けた記事は大変刺激的である.アートは受け手によって完成するものだといわれる.本特別小特集が読まれた皆様の中で未来につながるものとして完成されることを期待したい.

 最後に,本特別小特集は,執筆内容を決めていく過程で執筆者の方からお知恵を頂くことで輪郭を与えられ,このような特別小特集として成立させることができた.貴重な内容を記事にして頂いたことと併せて執筆者の皆様に感謝申し上げたい.また,上記のような状況でも編集作業をしっかり進めて頂いた特別小特集編集チームメンバーの皆様にこの場をお借りして感謝申し上げたい.

特別小特集編集チーム

 橋本 俊和  岩崎  翔  坂本  隆  松田 哲直  宮下 山斗  八幡晃一郎  山脇 大造  池田 和史 


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