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現在,我々を取り巻く世界情勢に目を向けると,紛争や戦争の継続,ポピュリズムの台頭,政権交代など,不安定な状況が続き,経済界では自国優先の動きが顕著となりつつある.一方で,経済を支える先端技術の進展は,グローバルに展開されるアカデミアのオープンリサーチによって強力に推進されていることは疑う余地がない.今日のような世界規模で政治や安全保障の状況が大きく変化する時代にあっても,情報流通はグローバル社会に不可欠であり,国境を越えた情報通信技術は重要な社会基盤である.このような観点から,私は情報通信分野でグローバルに活躍できる人材の育成と供給が極めて重要であると考える.学会は産学官の協力の下,最先端の研究・教育・社会実装を追求すべきであろう.
国を挙げて人材供給に真剣に取り組むためには,文部科学省・総務省・経済産業省などが横断的に連携する仕組みを整えることが不可欠である.文部科学省では,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「情報通信科学・イノベーション基盤創出プログラム(CRONOS)」や「先端国際共同研究推進事業/プログラム(ASPIRE)」を通じて人材育成と国際連携を推進している.その営みに,総務省や経済産業省による産業振興策と連動させることで,国内外の研究者・企業が連携しやすい枠組みが整えられる.Beyond 5Gや半導体技術などにおける戦略的投資は省庁連携の下で行うことが重要である.そのためにもCRONOSのような研究者対話型のアプローチを取り入れながら,人材育成・人材供給と産業振興を結び付ける具体的な取組みを強化せねばならない.更に,情報科学と情報通信の融合分野やグローバル企業との連携を強化しなければ,通信・半導体などの基盤産業を支える卓越人材は十分に育成・供給できない.
省庁連携による支援策を実効性のあるものとするには,産学連携の強化が要となる.情報通信技術は未来社会を支える基盤であり,電子情報通信学会においては産学の多様なステークホルダーが集結しているにもかかわらず,本領域で優れた人材を十分に可視化し人材循環による人材活用ができていない課題が顕在化している.企業側も,激化する人材獲得競争によって採用活動の早期化・長期化を強いられ,真に卓越した人材を呼び入れる機会を十分に確保できていないのではないか.
このような背景から,通信ソサイエティでは産学活性化課題検討WGを立ち上げ,学会を活用した採用活動や研究交流の効率化を検討している.私がソサイエティ会長として推進する「普段の私を見て」戦略(産業界の会員が,卓越したアカデミアの研究者を,普段の研究会等の場で評価・表彰し,協働や人材循環につなげる戦略)の下,研究会や会議などでアカデミアと企業が日常的に交流し,人材採用や研究連携を深める仕組みを更に充実させたい.具体的には,各研究専門委員会が共催・併催する研究会での学生表彰や意見交換会,ソサイエティ大会でのインターン情報共有セッションなどを通じて,学術界と産業界の双方に有意義な場を提供することを目指している.また,情報科学と情報通信の融合を意識した教育カリキュラムや学会体制の整備も急務である.海外の先進事例に学び,我が国においても国際的な研究コミュニティを育成し,企業との連携を一層強化していくべきである.
通信ソサイエティは,本会の他ソサイエティと連携し,社会基盤の整備と技術革新を推進するとともに,次代を担う若い才能が大いに活躍できる環境作りに積極的に貢献する必要がある.そのためには,人材供給における諸課題を省庁連携による人材育成と産学連携の強化を通じて解決し,国際連携の加速と戦略的投資を適切に進めることが重要である.社会の動揺に左右されることなく,電子情報通信分野の研究・教育・社会実装に果敢に挑戦するべきである.会員の皆様の御健勝と更なる御活躍を心から祈念するとともに,本会の一層の発展を願って,ここに巻頭の言葉とする.
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