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本会選奨規程第29条(電子工学及び情報通信並びに関連分野における教育実践(学会,教育機関,企業等での教育の実践)において顕著な成果を挙げ,当該分野の教育の発展に寄与した個人)に基づき,下記の3名を選び贈呈した.
電磁波工学およびアンテナ工学の啓発に対する貢献
新井宏之君は,1987年に東京工業大学大学院博士課程を修了し,東京工業大学助手,1989年から横浜国立大学工学部講師,同助教授を経て,2002年に同大学教授に就任しました.また,1997年には米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校において客員研究員,2005年には韓国延世大学において客員教授を務めました.
同君は,電磁波工学及びアンテナ工学を専門としています.特に自身の電磁気学に関する知識をベースとし,その応用として移動体通信用アンテナや小形アンテナの先駆け的研究に尽力し,研究成果の啓発普及活動に積極的に取り組んできました.
1992年に「電波工学」を出版し,その後電磁気学及び電磁波工学に関する多くの教科書を出版し,電磁気学及び電磁波工学の啓発活動に成果を挙げています.これらの教科書には電波伝搬,マイクロ波工学などのアンテナに関連する分野の内容も網羅されており,様々な分野の研究者/技術者への教育効果は計り知れません.また,1996年に出版した「新アンテナ工学」は,国内でアンテナ開発に携わる多くの研究者が参照する教科書となっており,アンテナ工学の啓発に極めて大きな貢献を果たしてきました.本書では電磁界解析法として現在主流となっているモーメント法,有限要素法,FDTD法なども詳細に解説しており,今後これらの教科書を参考にすることで新しい製品や技術が広く開発されることが期待できます.
更に,アンテナ測定技術に関しても,電磁波工学の知識を基にアプローチし,多くの成果を上げています.その集大成として,2022年に「Design and Measurement of Antennas and Propagation in Mobile Cellular Systems」を出版し,アンテナ測定技術の発展に貢献しています.また,関連する内容で本会の和・英論文誌において4本の招待論文を執筆しています.
以上から,同君の電磁波工学及びアンテナ工学の啓発に対する貢献は本会の教育優秀賞を受賞するにふさわしいと考えここに推薦します.
誰も取り残さないICT・デジタル分野における社会教育活動の推進
木村尚仁君は,1992年に北海道大学大学院博士後期課程を修了し,北海道工業大学(現・北海道科学大学)専任講師,同准教授を経て2008年から教授に就任しました.また1995~1997年には北海道大学電子科学研究所において客員助教授を,2005~2006年には独・ブレーメン大学において客員研究員を務めました.
同君は現在フィジカルコンピューティング,電子デバイス工学,教育工学を専門としています.マイコンとセンサ,アクチュエータ等を用いて地域課題解決のためのデバイスや,STEAM教育用教材についての研究・開発を行っています.イノベーションの影響が急速に社会へ浸透する中で市民の誰にとっても科学・テクノロジーの理解は不可欠ですが,都市部と地方での学びの機会には格差があります.同君は自身が開発した教材デバイスを活用し北海道各地で科学啓発活動を実施し,テクノロジーを市民の味方にするための活動を継続的に行っています.活動実績は道内約16の地域,回数は出前授業や模擬講義も合わせ延べ130以上になります.実施報告を学会,論文,研究室ブログ等で公開しており多くの人々が参考にすることができます.また9年ほど前からリモートでの講座実施にも取り組んでおり,その知見はコロナ禍での大学におけるリモート講義やオンラインでの公開講座にも生かされました.特に同君は網走市のオホーツク・文化交流センターと連携活動を行っており,最近の「情報技術を活用した地域学の取り組み」により同センターは第76回最優秀公民館に選ばれました.ディジタル技術,ICTを活用した社会教育,公民館運営を推進してきたことを評価されての表彰であり,電子情報通信分野の啓発に関する貢献は大きいと言えます.
更に同君は社会教育士としてテクノロジー系社会教育の活動を展開しています.今後大人のリカレント教育やリスキリングの役割は拡大すると思われ,これらの活動は新たなフェーズの学びにも大きく寄与できると言えます.以上の取組みは教育優秀賞にふさわしいと確信し,推薦します.
授業履修型留学を必修とする国際プログラムの設計と運用
三好 匠君は,1999年に東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程を修了し,早稲田大学助手を経て2001年に芝浦工業大学システム理工学部電子情報システム学科に着任されました.現在は教授として教育研究の両面において辣腕を振るうとともに,大学院理工学研究科長補佐,システム理工学部長補佐を兼務し,未来の教育研究の在るべき姿を実現すべく尽力されています.
2014年の文部科学省スーパーグローバル大学創成支援(SGU)を皮切りに,多くの大学において「教育の国際化」が積極的に進められています.芝浦工業大学システム理工学部ではより実質的な国際化のため,同君を中心に1セメスター以上の国外留学と留学先での単位取得,卒業単位の約1/4以上を英語開講科目で取得,英語での卒業研究実施を卒業要件とする独創的かつ挑戦的な「国際プログラム」を2017年に設置しました.同君は,本会アクレディテーション委員会幹事,芝浦工業大学国際交流センター長を務めた経験から他国の理工系教育制度に精通し,150を超える協定校から留学先を学生自らが選択できる自由度の高い画期的なプログラムを作り上げました.
本プログラムでは,学生は休学することなく国外交換留学が可能であり,当該学科の留学実績は欧米を中心に13か国16大学に広がっています.カリフォルニア大学アーバイン校やソルボンヌ大学など,世界屈指の大学も含まれています.修了生は,英語力やコミュニケーション能力のほかに,行動力,対応能力,異文化理解などグローバル社会で活躍するための多様性理解と柔軟なコミュニケーション能力が十分身についていることが明らかとなっています.他大学への影響も非常に大きく,複数の大学から本プログラムの設計についての問合せを受け,その内容を包み隠さず開示されていると聞いております.
以上のように,電子情報通信分野における大学教育の国際化の観点から,同君の功績は非常に大きく,今後の我が国のグローバル理工学教育に対して大きなインパクトを与えるものであります.本会教育優秀賞を受賞するにふさわしいと確信し,ここに推薦します.
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