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ゴールデンウィークは,新緑が美しい季節の始まりでした.若葉が芽吹き始め,私の好きな季節です.気持ちの良い季節の中,行楽地は多くの人で賑わっていますが,近年,海外からの観光客が急増していることを感じます.実際,2024年には過去最高の3,686万人を記録したとのことです.海外からの留学生も増えています.2024年の海外留学生は,過去最高の34万人に達しています.これほど多くの方が日本に来てくれるようになった理由は,日本に様々な魅力があるからだと思います.日本の魅力は,繊細な味覚に支えられた多様な食事,丁寧に保存された歴史ある伝統的な文化,アニメに代表される現代文化など,ほかにも多岐にわたります.治安も良く,衛生面も優れており,自慢できる国だと思います.
しかし,海外の方が興味を持ってくれる一方で,日本はグローバル化への対応が遅れています.特に,研究開発の向上は国際社会での存在感を持つために必須であり,それに対応できる人材育成が重要となっています.近年,学会ではグローバル化をテーマとしたシンポジウムなどが多く開催されていますが,その多くは人材育成に焦点を当てたものになっています.グローバル化に対応できる人物像とはどういうものか,国際社会で戦える研究開発力の向上が期待される人物像とはどういうものか,議論が続いています.
私は,グローバル化に挑める人材には,真のコミュニケーション能力と許容力が求められると思っています.語学力が必要であることはもちろんですが,それ以上に,仲間づくりができる力が必要だと思うからです.そして,残念ながら,今の日本人には真のコミュニケーション能力とそのために必要な許容力が足りないのではないか,と課題を感じています.コミュニケーション能力とは,相手の考えや主張を深く理解し,その上で相手の主張に対して正面から向き合い議論する力だと思います.言葉は往々にしてうまく伝えきれないものです.誰もが自分の考えをうまく表現できない場合が多く,それを補うイマジネーション力も必要です.そして,相手の主張を一旦受け止める許容力なくして,真のコミュニケーションは成立しません.一様な価値観ではなく,多様な価値観を認める許容性が必要となり,コミュニケーションの土台が作られます.その土台の下に議論が可能となります.お互いが納得できて,正解だと思えるまで,とことん議論する真剣さが,現在の日本には欠けているのではないでしょうか.
日本人の良さは協調性を重んじ,和を尊重することだと言われています.しかし,真の協調性や和を尊重することは,同じ考え方だけを受け入れることではないはずです.海外では仲間づくりのスピードが速く,目的を共有する仲間づくりが進んでいます.私たちも異なる意見を尊重し,向き合う力を持って,大きな仲間づくりを加速する必要があります.多様な意見を受け入れ,理解し,議論することで,強固な仲間づくりができます.多様な考えをもつ仲間づくりを諦めてしまうと,個人の力に頼ることになり,大きな成功は難しいでしょう.今の日本では,相手の考え方が違うと感じると,理解を諦め,議論を避けて距離を置く傾向があるのではないでしょうか.私自身も反省すべき点です.
聖徳太子の言葉,「和を以て貴しと為す」は,単に協調性を大切にすることを重んじたわけではなく,十分な話合いをすることで物事が成し遂げられることを説いているそうです.日本人の原点にある「和を以て貴しと為す」ことが,今こそ必要だと思います.
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