生成AIの光と影――安全な活用と未来への展望――小特集編集にあたって

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Vol.108 No.8 (2025/8) 目次へ

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小特集

生成AIの光と影

――安全な活用と未来への展望――

小特集編集にあたって

編集チームリーダー 池田和史

 2022年11月のChatGPT公開を契機に,生成AIは研究室の枠を飛び出し,僅か数年で誰もが使える汎用インフラへと変貌した.自動翻訳や文章要約のみならず,高解像度の画像生成,動画編集,音声合成までがクラウドで提供され,私たちの創造活動や意思決定プロセスを根底から書き換えつつある.他方,フェイク画像やねつ造音声が選挙や金融市場に影響を及ぼす事例も現れ,法制度と倫理の整備が急務となっている.期待と危機感が交錯する中,多様な専門領域の知が結集し,責任あるガバナンスを構築することが社会的要請となっている.本号では,「生成AIの光と影――安全な活用と未来への展望――」と題した小特集を企画し,技術の恩恵とリスクを冷静に対比し,持続可能な利活用の道筋を探ることを目指した.

 本小特集は6章構成である.第1章では,生成AIを安全・安心に活用するための国際動向と国内施策を俯瞰する.AI Safety Institute(AISI)設立の経緯と国際ネットワーク構築,国内「AI事業者ガイドライン」改訂など最新の取組みを整理し,人間中心設計を取り入れた評価観点やレッドチーミング手法の要点を紹介している.

 第2章は,2024年の「選挙イヤー」に顕在化した偽・誤情報問題を取り上げる.大統領選や国民投票で観測された生成AI由来のディープフェイクを定量的に分析し,ファクトチェック組織の対応やプラットホームの自動検知技術,政府による規制策を比較検討する.また,2025年1月に発足した第2次トランプ政権の下でコンテンツ規制議論が後退した影響にも触れ,多層的な対策の必要性を提言している.

 第3章では,生成AI活用を,インフラ建設・防衛/軍事・行政サービス・医療・金融・教育・クリエイティブ産業など多様な分野別に多数のケーススタディとして整理する.計算・データ・人材という3種のリソース争奪,各国の経済安全保障戦略,スタートアップ投資動向まで踏み込み,普及を支える技術/制度上の課題と展望を示している.

 第4章では,日本古典文化を対象にした生成AIユースケースを紹介する.IIIF Tsukushi Viewerによる古典籍チャット,Evo-Ukiyoe/Evo-Nishikieによる新規生成と画像カラー化などを通じ,「作業支援」「新コンテンツ創造」「既存コンテンツ加工」の3パターンを整理.オリジナルとフェイクの境界,権利と倫理の問題など文化固有の論点を提起する.

 第5章では,ディジタル民主主義の現場で進む生成AI活用とリスクを検証する.AI司会による熟議支援,意見の自動分類・可視化,AIチャットボット候補者などの事例を示しつつ,生成AIが政治的バイアスを増幅し得る点や,住民ワークショップ実験で得られた知見を紹介.政策形成プロセスにおける可能性と慎重な運用の両面を論じている.

 第6章では,創作分野における生成AIの想像力拡張を論じる.AIと共作した小説やAIアート受賞作など最新事例を整理し,結合的・探索的・変革的という3類型の創造性を再考.プロンプト設計から著作権・クレジットまで,クリエイターが直面する実務的課題と未来像をSFプロトタイピング的に描いている.

 いずれの記事も,最新技術の光を紹介するだけでなく,影となる社会課題を包み隠さず提示し,解決への具体策を提案している.本小特集が研究・産業・文化・政策に携わる読者にとって,健全なイノベーションを推進する指針となり,未来を共創する一助となれば幸甚である.

 最後に,御多忙な中執筆に御協力頂いた執筆者の皆様に深く感謝を申し上げる.また,本小特集の企画に協力頂いた会誌編集委員会WG・Dの委員並びに事務局の皆様の御尽力に深く感謝を申し上げる.

小特集編集チーム

 池田 和史   宮﨑 太郎   唐木田 亮   粟野 智治   岩崎  翔   井口  寧   臼倉  徹   掛井 将平   齊藤 史哲   坂田 幸辰   坂本  隆   佐久間大樹   高梨 昌樹   土橋 宜典   西村 康孝   西山 正志   馬場崎康敬   八幡晃一郎   Hautasaari Ari 


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